未払い賃金(残業代)の請求は退職後でもできる? 北九州オフィスの弁護士が解説
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残業代の未払いは労働基準法違反です。サービス残業が当たり前という職場の空気があろうと、労働基準法に違反していることに間違いありません。
北九州市を管轄する厚生労働省福岡労働局サイト内では、労働災害の減少を目指したパンフレットを公開しています。該当のパンフレットでは主に安全確認を主眼に置かれていますが、その中にはメンタルヘルス対策や長時間労働者の健康確保措置の実施状況をチェックするよう言及されています。
今の職場で長時間のサービス残業などをさせられているのであれば、無理に働く意味も義務もありません。もし、退職しようと勇気を出して考えているのなら、今まで請求していなかった未払い賃金(残業代)を会社に請求して取り戻しましょう。
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの現役弁護士が退職後の残業代請求の方法や、時効について解説します。
1、残業代の請求は退職後でも大丈夫?
結論からいうと、退職後にも未払い賃金(残業代)を請求することが可能です。
ただし、請求ができなくなる「時効」があります。
残業代請求におけるタイムリミットについて知っておきましょう。
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(1)退職後に残業代の請求はできる?
労働基準法第115条によって未払い賃金の請求に関わる時効は「2年」とされています。
つまり、あなたが退職したとしても、支払日から2年経過していない未払いの残業代分は、請求する権利があるということです。
しかし、未払い賃金(残業代)を請求するには、証拠が必要です。
退職後に残業代を請求する場合は証拠集めがネックになる可能性があります。まだ働いている場合は、退職前にあらかじめ証拠集めをしておきましょう。 -
(2)請求可能な期間
前述のとおり、時効が完成するまでの「2年」間は残業代請求が可能です。
たとえば令和元年7月に残業代請求を行うのであれば、たとえ退職していたとしても平成29年7月支払い分までの残業代請求ができるということになります。
「3年」分さかのぼって請求する判例も存在しますが、前例はそれほど多くありません。
裁判になっても認められる可能性は低いので、原則「2年」と考えておくとよいでしょう。
令和2年4月1日より、残業代請求の時効が原則「2年」から「3年」に延長される予定ですが、令和2年3月現在の時効は2年です。
2、退職後に残業代を請求するケースのほうが多い?
実は退職後に残業代を請求するケースのほうが多いのはご存じでしょうか?
在職中に残業代の請求をするのはなかなか言い出しづらいので、退職後に請求する方が多いのです。
しかし、多くの場合、スムーズに残業代を支払ってもらえるわけではありません。
そこで退職までにやっておいたほうがいいことや、注意しなければならないことも解説します。
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(1)退職後に請求されることが多い未払い残業代
「退職後」に残業代を請求するケースが多い理由は、在職中に関係を悪化させたくないと考えるためです。残業代請求は、上司や社長に盾を突く行為だと思われがちで、在職中に残業代請求はしづらいものなのでしょう。
在職中に残業代を請求すれば、気が付かなかった、知らなかったなどの理由で支払ってくれる可能性があるかもしれません。
しかし、上司や経営陣との関係が悪化しストレスフルな職場環境になってしまう可能性があることは否定できない事実です。
だからこそ、多くの労働者が退職後に残業代を請求するのでしょう。 -
(2)労働基準監督署へ残業代請求の相談をするのは、最適とはいえない
在職中、会社との関係を悪化させることなく残業代を請求する方法のひとつに「労働基準監督署への申告」があります。
しかし、労働基準監督署の主な業務は企業に違法行為がある場合に指導することです。
労働者個人を代理して会社に残業代を請求してくれるわけではありません。
何度か是正勧告をしても改善しない場合は、書類送検などの強硬手段に出ることもありますが、残業代の強制的に支払わせることはできないのです。
会社が無視をすることもできてしまうため、残業代の請求手段としては最適とはいえません。
3、退職後に残業代請求をする際に注意する2つのこと
退職後に残業代を請求する人が多いですが、2点注意しておきたいことがあります。
それが、「証拠集めは在職中にしっかりと行っておくこと」と「なるべく早く行動すること」です。
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(1)証拠集めは在職中にしっかりと行っておく
退職後の残業代請求で重要なのは証拠の確保です。
退職してしまったら会社に自由に出入りできなくなりますので、在職中に証拠を集めておきましょう。
タイムカードやパソコンのログイン・ログアウト情報、業務日誌などの「残業時間を証明する証拠」だけでなく、就業規則や賃金規程、雇用契約書なども忘れないように入手してください。
証拠が乏しい場合でも、細かい証拠を組み合わせることで残業代の請求が認められるケースもありますので、どんな小さな証拠も保存しておきましょう。
証拠集めの段階から弁護士に相談しておくと、証拠集めの漏れがなく確実に有効な証拠を集めることができます。
証拠が何もない場合は、退職までの期間にきちんと証拠を積み重ねることでそれまでの期間の残業代も認められる可能性があります。 -
(2)退職してからなるべく早く行動に移す
先ほどお話ししたように、残業代請求の時効は2年です。給料日から2年間で未払い賃金の請求権が時効になってしまいます。
つまり、退職して1か月たてば、1か月分の未払いの残業代が請求できなくなるのです。
時効を止めるためには、配達証明付き内容証明郵便を退職後にすぐ送るなどの行動が必要になります。残業代を請求する内容を記した内容証明郵便を、配達証明付きで送ることによって、時効の完成を6か月延ばすことができるでしょう。
なお、内容証明郵便を送付する際は、残業時間や残業代を計算しておく必要があります。
退職時にしっかりと証拠を確保しておきましょう。
さらに内容証明郵便には、独特の作成ルールがあります。ご自身で作るのが難しい場合は弁護士などの残業代請求経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。
内容証明を送付する以外には、労働審判や裁判を起こすことで時効の進行を停止することができます。
4、残業代請求のタイミングはいつがベスト?
未払いの残業代は、退職前でも退職後でも請求できます。
先ほど退職後に請求する方のほうが多いと述べましたが、退職前と退職後それぞれメリットとデメリットがあります。
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(1)退職前に請求する場合
まずは、退職前に請求するメリットとデメリットをみていきましょう。
退職前に請求するメリット
退職前に請求するメリットは、「証拠集めがしやすい」ことと、内容証明などで時効を止めれば「請求期間が長くなる」ということです。
証拠集めは退職後よりも、圧倒的に在職中のほうが簡単です。残業代を請求する際に、証拠は非常に重要になりますので、大きなメリットでしょう。
また、残業代の請求権には時効があるので、退職してしまうと時効が過ぎてしまうリスクが高まります。在職中であれば2年分全額請求しやすいというのはメリットのひとつです。
退職前に請求するデメリット
退職前に請求するデメリットは、会社から不当な扱いを受けることになる可能性があることです。何よりも人間関係が悪化した職場で働き続けるのであれば、多大なストレスがかかってしまいかねません。
また、仕事もしながら証拠集めや請求手続きなどをしなければならないので、時間や労力がかかります。
弁護士に委任すれば、あらゆる事務手続きはもちろん、交渉もあなたの代理人として弁護士が対応します。退職前に請求する場合は特に、弁護士に相談するのがおすすめです。
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(2)退職後に請求する場合
次に、退職後に請求するメリットとデメリットもみていきましょう。
退職後に請求するメリット
退職後に請求する場合、弁護士に依頼すれば、相手と顔を合わせることなく残業代請求を進められます。
特に弁護士へ依頼することによって、裁判を視野に入れた強気の交渉が可能となります。
退職後に請求するデメリット
退職後に請求するデメリットは証拠を集めづらい点と、請求するまでに時間がかかると時効が完成するリスクが高まります。
退職してしまうと証拠集めをする機会がなくなります。証拠不足のままだと未払いの残業代請求しても拒否されたり、また低額しか請求できない可能性があります。
証拠集めに時間をかければかけるほど時効との関係で請求できる残業代が減るというデメリットも存在します。
5、まとめ
未払いの残業代請求は、在職中に証拠を確保した上で退職後に行うことが多い傾向があります。その場合は、在職中の証拠集めが非常に重要になります。
残業代請求に関する経験豊富な弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスでは、あなたの職場環境に最適な証拠の集め方、残業代の請求方法やタイミングなど、あなたの状況に応じた証拠についてアドバイスを行います。まずはお気軽に相談してください。
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