契約社員を雇い止めする際に企業が注意すべきポイントとは?
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厚生労働省が公表している「新型コロナウイルスに関連した雇用調整の状況」の資料によると、令和5年(2023年)3月時点で福岡県における雇用調整の可能性がある事業者数の累計は429でした。
事業を縮小するために契約社員の雇い止めを検討している場合、経営者としては、労働者とのトラブルは避けたいものでしょう。そのためには、雇い止め法理や無期転換などのルールについて理解しておく必要があります。
本コラムでは、雇い止めのルールや注意点について、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、雇い止めとは?
契約社員の雇い止めとは、一定の期間を定めて雇用されている契約社員に対して、その契約期間が満了した時点で再契約をしないことにより、雇用関係を終了させることを指します。
契約社員の雇用については、労働契約法に基づいて、企業側に契約の更新を決定する権利があります。
しかし、不当な理由による雇い止めは認められない可能性があり、雇止めとする際には適正な手続きと合理的な理由が必要とされているのです。
なお、雇用契約を企業側から終了させる形態として、大きく「雇い止め」と「解雇」の二つがあります。「雇い止め」とは、契約期間が満了した際に、労働者の意向とは関係なく契約を更新しないことを指します。
この場合、企業は特段の理由を示す必要がなく、契約期間の満了をもって勤務が当然に終了します。つまり、「雇止め」とは単に「労働契約期間の期間が満了した状態」を示します。
一方、「解雇」は、有期雇用契約期間中に特定の理由が生じた場合に、企業側から一方的に契約を終了させることを指します。
解雇には厳格な法的条件が求められているため、不当な解雇は違法となる可能性があります。
また、雇用期間が定められていない雇用契約を終了させることも「解雇」と表現されます。
2、雇い止めに関するルール
雇い止めは雇用契約の期間満了による契約終了であるため、原則として事業者側の自由とされています。
ただし、すべての雇い止めが相当と認められるわけではありません。
以下では、労働者を保護するために設けられている、「雇い止め法理」および「無期転換ルール」について解説します。
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(1)雇い止め法理
「雇い止め法理」とは、契約期間の満了に伴う更新拒否が適法か否かを評価するための法的な判断基準です。
具体的には、「労働者に対して継続的な契約を結んでいた場合には、特別な事情がない限り契約の更新を拒否できない」というルールになります。
雇い止め法理が適用されるかは、二段階で判断されます。
まずは、第一段階として、以下のどちらか片方に該当するか否かが確認されます。- 契約上は期間が定められているにもかかわらず、実質的に無期雇用の従業員と同様の扱いを受けている
- 今後も契約が期待できると従業員が判断できる合理的な理由がある
具体的には、契約が何度も更新され、企業として定期的に雇用を継続する意思があると推認される場合や、企業側の行動や発言により契約社員が今後も契約が継続されることを期待することが相当である根拠が存在する場合などには、第二段階に進みます。
そして、第二段階として、以下を両方ともを満たすか否かがチェックされます。- 客観的に見て雇い止めに対する合理的な理由があるか
- 雇い止めの理由として社会通念上の相当性があるか
雇い止めに関する客観的・合理的な理由の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 事業の縮小や業績の悪化など、経営上の必要性
- 職務遂行能力の不足や勤務態度の問題など、従業員自身による理由
- 組織改編や人員配置の見直しなど、組織運営上の必要性
また、雇い止めとする場合、その理由が社会通念上相当であると認められなければなりません。
つまり、雇用契約の更新を行わない理由が、公序良俗に反しているかどうか、または一般的に受け入れられる範囲を逸脱しているかどうかが問われます。
上記のように雇い止め法理による二段階に判断することで、客観的・合理的な理由の有無をチェックして、不当な雇い止めを防止する仕組みが設けられているのです。 -
(2)無期転換ルール
「無期転換ルール」は労働契約法18条に基づくものであり、「同一の労働者を5年以上継続して雇用した場合に、労働者の申込みにより雇用契約が無期契約に転換される」という仕組みのことをいいます。
このルールにより、5年以上雇用された契約社員は自動的に正社員と同等の待遇を受ける権利を得て、企業側としては実質的に雇い止めが不可能となります。
3、契約社員を雇い止めとする場合の注意点
以下では、契約社員を雇い止めとする場合の注意点を解説します。
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(1)解雇と同様の合理性・相当性が必要になる
契約社員を雇い止めとする際、解雇と同様にその合理性と相当性が問われるため、企業側としては十分な理由を明示することが求められます。
たとえば、経営状況の悪化や事業の縮小など、企業としてやむを得ない状況が生じた場合には雇い止めが合理的であると認められる場合があります。
しかし、その際も従業員の立場や社会通念を考慮して、適切な手続きをふまえる必要があるのです。 -
(2)1年以上継続・3回以上契約を更新している場合は満了日の30日前に雇い止めの予告が必要
契約社員の雇用契約継続が1年以上続き、かつ3回以上契約を更新している場合には、無期契約に近い形態と捉えられます。
そのような場合、雇い止めとする際には事前に予告が必要です。
労働契約法では、契約社員が次の雇用を準備するために必要な時間を確保するという観点から、契約期間満了により雇い止めとする場合でも、労働者に対して30日前までに事前通知をすることが求められています。
また、もし雇い止めの事前通知を行わなかった場合、平均賃金の30日分を支払う義務があります。
この点は解雇時と同様であり、法律に定められた事項であるため、企業側としては必ず順守する必要があります。
なお、契約社員の雇い止めについては、予告の手続きを行ったとしても、それだけでは必ずしも法的に問題がないとは限りません。
予告は一部の手続きに過ぎず、最終的な雇い止めの適法性は雇い止め法理により判断されます。
したがって、雇い止めを予告する期間の前であっても、「雇用契約を終了する」と決定した時点で従業員に伝えておくことが大切です。 -
(3)雇用契約が終了した場合には本人に契約解除通知書にサインしてもらう
契約社員を雇い止めとする際には、契約終了後には本人に契約解除通知書へサインしてもらうことが重要です。
この手続きは、互いの合意を明確にして、後日に生じるかもしれないトラブルを予防するためのものです。
なお、契約書には「雇用期間を更新しない理由」を、判断基準にしたがってしっかりと明示する必要があります。
4、契約社員との契約・労務管理のお悩みは弁護士に相談を
以下では、企業の経営者や担当者の方が、契約社員の雇い止めに関する悩みを弁護士に相談するメリットを紹介します。
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(1)法的な観点から雇い止めが適切かどうかを判断できる
企業が契約社員の雇い止めを決定する際には、「合理的な理由があるか」「社会通念上の相当性があるか」など法律的な観点から判断して、雇い止めが認められるかどうかを確認する必要があります。
もし基準を満たさない場合には、雇い止めが法的に認められないこととなってしまい、トラブルの原因となる可能性もあります。
適切な判断を下すためには、まずは法律の専門家である弁護士に確認してもらうことが大切です。 -
(2)労働者とのトラブルにならないようにサポートできる
弁護士に相談することで、契約社員やそのほかの労働者との雇用に関するトラブルを避けるためのサポートが得られます。
具体的には、弁護士は以下のような対応を行うことができます。- 契約書のチェック
契約書の不備や不適切な記載を指摘して、労働者との間でトラブルが起こらないような適切な契約書を作成します
- 雇い止めの通知方法へのアドバイス
雇い止めとする場合には、その理由を労働者に明確に説明して納得してもらうために適切に通知する方法についてアドバイスを行います
- 労働トラブルの予防
企業の労務管理や就業規則などを見直しながら、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策を提案します
- 契約書のチェック
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(3)トラブルが起きた場合も適切に対応できる
もし雇い止めに関して労働者との間でトラブルが起きてしまった場合にも、すぐに弁護士に相談することで、トラブルに対して適切に対処して被害を軽減することができます。
たとえば、雇い止めを通告したにもかかわらず、社員がこれを不服として争う場合には、弁護士は事実関係の確認や法律的な位置付けについてアドバイスすることができます。
また、雇い止めにより社員から損害賠償が請求された場合でも、弁護士なら請求に対する反論や防御策を提案して、企業が支払うべき金額を軽減させることが可能です。
5、まとめ
契約社員を雇い止めとする場合には、雇い止め法理に沿って明確な理由を従業員に示さなければなりません。
さらに、無期転換ルールや事前通知が必要なタイミングなどを確認するためにも法的な知識も必要となるので、労働者の雇用や労務管理については定期的に弁護士に相談することが大切です。
企業の経営者や担当者で、契約社員の雇い止めをスムーズに進めたい方や従業員との契約に関するトラブルを事前に防ぎたい方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています