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従業員が勝手に値引きをしていたとき企業が取れる対応

2023年09月05日
  • 労働問題
  • 従業員
  • 勝手に値引き
従業員が勝手に値引きをしていたとき企業が取れる対応

会社や店舗が販売している商品やサービスを従業員が勝手に値引きした場合には、業務上横領罪や背任罪で罰せられる可能性があります。

無断値引きによって損害を受けた会社側としては、警察に通報するという対応も選択肢になるほか、従業員に対する懲戒処分や損害賠償請求を検討することになるでしょう。ただし、懲戒解雇を実行する際には法的な有効性を慎重にチェックする必要があるため、まずは専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

本コラムでは、会社の商品やサービスを従業員が勝手に値引きする行為の違法性や、会社が対処する際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。

1、勝手に値引きする行為が業務上横領罪に当たるケース

従業員が会社の商品やサービスを勝手に値引きする行為については、「業務上横領罪」(刑法第253条)または「背任罪」(刑法第247条)が成立する可能性があります

まずは、無断値引きにつき業務上横領罪が成立するのはどのような場合であるかについて、要件と具体例を解説します。

  1. (1)業務上横領罪の成立要件

    業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領する行為について成立します(刑法第253条)。

    1. ① 業務上
      「業務」とは、委託を受けて物を占有・保管する内容の事務をいいます。
      会社の所有物を保管する従業員は、その物を「業務上」保管していることになります。
      なお、ただし、委託の有無については、契約等の法律上の根拠がある場合だけでなく、事実上の関係であっても認められる場合があることに注意してください。

    2. ② 自己の占有する
      「占有」とは、自分の判断で財物を利用・処分できる状態をいいます。
      たとえば従業員が、顧客に対して販売するために会社の商品を預かっている場合には、従業員はその商品を「占有」していることになります。

    3. ③ 他人の物を
      「他人の物」とは、他人の所有物を指します。
      従業員が業務上占有している商品が会社の所有物である場合、その商品は「他人の物」に該当します。

    4. ④ 横領
      「横領」とは、不法領得の意思を実現する一切の行為です(最高裁昭和27年10月17日判決など)。
      「不法領得の意思」とは、委託された任務に背き、所有者でなければできない処分をすることを意味します(最高裁昭和24年3月8日判決)。
  2. (2)業務上横領罪に当たる無断値引きの例

    業務上横領罪の成立には、「物」の横領がなされたことが要件となります。
    したがって、物ではないサービスを勝手に値引きしたとしても、業務上横領罪は成立しません

    また、物である商品を勝手に値引きした場合でも、販売代金等の利益を会社が受け取っているなど従業員自身が利益を得ていない場合には、業務上横領罪は成立しないと解されています。

    業務上横領罪が成立するのは、会社の商品を勝手に値引きしたうえに、その販売代金を着服した場合などです
    この場合、会社の商品またはその代金という「物」を横領したことになるため、業務上横領罪が成立するのです。
    また、値引き相当額の一部についてキックバックを受けていた場合にも、値引きをした従業員に業務上横領罪が成立する可能性があります。

2、勝手に値引きする行為が背任罪に当たるケース

会社の商品を勝手に値引きする行為については、業務上横領罪ではなく背任罪が問題になるケースが多いといえます

以下では、無断値引きについて背任罪が成立する場合の要件と具体例を解説します。

  1. (1)背任罪の成立要件

    背任罪は、以下の要件をすべて満たす場合に成立します(刑法247条)。

    1. ① 他人のために事務を処理する者であること
      本人から事務処理を委託されたことが必要と解されています。
      会社の従業員は、会社という「他人」のために事務を処理する者に当たります。

    2. ② 図利加害目的を有すること
      自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的を有すること(図利加害目的)が要件とされています。

    3. ③ 任務に背く行為をしたこと
      誠実な事務処理者としてなすべき行為をせず、またはなすべきではない行為をしたことが要件となります。

    4. ④ 本人に財産上の損害を与えたこと
      上記の各要件を満たす背任行為により、本人の財産を減少させ、または本人の財産の増加を妨げたことが要件となります。
  2. (2)背任罪に当たる無断値引きの例

    従業員が会社の商品やサービスを勝手に値引きした結果、会社が得られるはずだった販売代金が減少した場合には、従業員に背任罪が成立する可能性があります

    無断値引きについて背任罪の成否を左右するのは「図利加害目的」の有無です。

    たとえば、親族や友人などのために値引きをした場合には「第三者の利益を図る」という図利加害目的が認められ、背任罪が成立すると考えられます。
    これに対して、一向に売れない会社の在庫を処分するためにやむなく値引きした場合などには、図利加害目的がないために背任罪は成立しない可能性が高いといえるでしょう

3、商品やサービスを勝手に値引きした従業員を解雇できるか?

会社は、商品やサービスを勝手に値引きした従業員に対して解雇を含めた厳しい対応を検討すべきです。
ただし、解雇は法律上厳しく制限されているため、処分を実施する前に慎重な検討を行うことが必要になります

  1. (1)懲戒解雇の要件|解雇権濫用の法理に要注意

    商品やサービスの無断値引きを理由として従業員を懲戒解雇するためには、以下の要件を満たす必要があります。

    1. ① 就業規則上に懲戒事由として定めがあること(労働契約法15条)
      後述のように、商品やサービスを勝手に値引きする行為を理由として従業員を懲戒解雇するためには、就業規則で定められる懲戒事由に該当することが必要です。その前提として、就業規則上に懲戒事由の定めがきちんとなされていることが必要となります。 無断値引きそのものが具体的に明示されていなくても、「会社に対して違法に損害を与えること」などの抽象的な懲戒事由に該当すれば、懲戒処分が認められる可能性があります。

    2. ② 解雇権濫用の法理に抵触しないこと(労働契約法第15条、16条)
      就業規則上の定めに該当するという客観的合理的な理由がない解雇、あるいは客観的合理的理由があるものの社会通念上相当と認められない解雇は無効となります。


    とくに解雇権濫用の法理については、使用者(会社)による労働者の不当解雇を防ぐため、きわめて厳しい運用がなされています。
    従業員の行為がそれほど悪質でないにもかかわらず懲戒解雇を行うと、従業員の側から不当解雇を主張されて会社が不利な立場に置かれてしまう可能性もあることに注意してください

  2. (2)無断値引きした従業員を解雇できる可能性が高いケース

    会社の商品やサービスを勝手に値引きする行為について、懲戒解雇が認められる可能性が高いケースとしては、以下のようなものがあります。

    • 会社に与えた損害が多額に及ぶ場合
    • 無断値引きが多数回かつ長期間にわたって行われていた場合
    • 過去に無断値引きによって懲戒処分を受けたにもかかわらず、再び無断値引きを行った場合
    • 無断値引き以外にも重大な非違行為が認められる場合
    など


    これに対して、値引き額が僅少かつ単発の場合や、図利加害目的が認められない場合などには、懲戒解雇は重すぎる処分として無効となる可能性が高いといえます

  3. (3)段階的な懲戒処分も検討すべき

    懲戒解雇を適法に行うための要件は厳しく、後になって従業員から不当解雇を主張されるリスクも存在します。
    会社としては、いきなり従業員を懲戒解雇するのではなく、段階的に懲戒処分を行うべきでしょう

    まずは、戒告・けん責・減給といった軽い懲戒処分から始めてください。
    懲戒を受けた従業員に改善が見られなければ、次は諭旨解雇や懲戒解雇を含む重い懲戒処分を行うことも検討しましょう。
    先に軽めの懲戒処分を行ったにもかかわらず従業員に改善されない場合は、懲戒解雇が適法と認められる可能性が高くなります。

    どの程度の懲戒処分が適法と認められるのかについては、判断が難しいことも多々あります。
    後になって従業員との間でトラブルが生じることを予防するためにも、懲戒処分を実行される場合には、あらかじめ弁護士に相談しましょう

4、勝手に値引きする行為については損害賠償請求が可能

従業員が会社の商品やサービスを勝手に値引きした場合、会社は従業員に対して、値引きによって被った損害の賠償を請求できます。
従業員による無断値引きは、会社との関係において、労働契約上の債務不履行(民法第415条第1項)または不法行為(民法第709条)に該当するためです。

ただし、損害賠償額を従業員の給与から天引きすることは、労働基準法第24条第1項に基づく「全額払いの原則」に反します。
したがって、会社としては、従業員に対して賃金全額を支払ったうえで別途に損害賠償を請求する、という対応をとらなければなりません。

従業員に対して損害賠償を請求することには、費用や手間・労力などのコストが少なからず存在します。
無断値引きが多額に及ぶ場合には、多少のコストを織り込んでも損害賠償を請求したほうがいいでしょう。
これに対して、無断値引きが少額に過ぎない場合は、請求できる損害賠償よりもコストのほうが上回ってしまうおそれがあります。
それでも、「従業員の行為を戒めて、他の従業員に対して無断値引きを許さないというメッセージを伝える」という意図がある場合には、損害賠償請求を実行することも検討すべきです。

いずれにしても、勝手に値引きをした従業員に対して損害賠償を請求するか否かは、経営上の利害得失などを総合的に考慮したうえで判断する必要があります
判断が難しい場合には、弁護士にご相談ください。

5、まとめ

従業員が会社の商品やサービスを勝手に値引きする行為は、業務上横領罪や背任罪に当たり得るほか、懲戒処分や損害賠償請求の対象となります

会社としては、「無断値引きとする従業員の存在を想定して事前に講じておくべき措置、無断値引きをした従業員に対してどのような処分を行うか、損害賠償を請求するか否かなどについて、法律および経営上の観点から慎重な検討が必要となります。
とくに法的な観点からの検討については、専門家である弁護士にアドバイスを受けることをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、人事労務その他の企業法務に関するご相談を承っております。
企業の経営者や人事・労務の管理者で、商品やサービスを勝手に値引きする従業員への対応にお困りの方は、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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