養育費の履行勧告を無視されたら? 履行命令と強制執行手続きを解説

2024年10月09日
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養育費の履行勧告を無視されたら? 履行命令と強制執行手続きを解説

北九州市が発表している人口動態統計によると、2022年の北九州市では1507組の夫婦の離婚が成立しました。

子どもがいる夫婦は、離婚をする時に親権者を決めて養育費の支払いに関する取り決めを行います。取り決める内容は「月々の支払い金額」「支払い期間」「支払い方法」などです。

養育費は夫婦間協議で取り決める場合もあれば、調停や審判など裁判上の手続きを経て取り決める場合もありますが、後者の場合は養育費が払われないときに「履行勧告」をすることが可能です。

「履行勧告」とはどのような手続きなのか、また履行勧告を無視されたらどのように対応すればいいのか、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。


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1、養育費の支払い義務とは

養育費は、経済的・社会的に自立していない子ども(未成熟子)を監護・教育するためのお金です。たとえば、生活費や教育費、医療費などが、養育費にあたります。

この養育費の支払い義務の根拠は、民法第877条の「扶養義務」と、それに基づく概念である「生活保持義務」によると考えられています。

「生活保持義務」とは、単に暮らしていけるだけの費用だけでなく、子と親が同じレベルの生活水準となるよう、親が費用を負担する義務です。

養育費の支払い義務は、夫婦の離婚に伴い親権を持たない親(非親権者)になったとしてもなくなりません子どもの健やかな成長のために、履行しなければならない義務が「養育費の支払い義務」なのです

2、履行勧告の概要と注意点

履行勧告は、調停や審判で定められた内容を守らない相手に対し、公式に注意する行為です。本章では、履行勧告の概要と、知っておくべき注意点について解説します。

  1. (1)履行勧告とは

    養育費の支払い義務は子どもの健やかな成長のためにも大切な義務ですが、中には取り決めを無視して養育費を支払わなかったり、支払いが滞ったりする非親権者がいます。

    その場合に行うのが、家庭裁判所から、養育費の支払い義務者に対して「取り決められた義務を履行しなさい」と促してもらう「履行勧告」という手続きです裁判所から直接警告がいくことで、心理的な圧迫を与え、スムーズな支払いが期待できます。

    履行勧告を行う場合には、以下の2点に留意しておきましょう。

  2. (2)履行勧告の注意点│法的強制力がない

    履行勧告は、相手に心理的プレッシャーをかけて養育費を支払ってもらいやすくなるメリットがある一方、罰則や法的な強制力がありません。そのため、支払いに応じてもらえない場合があります。

    その場合は、「履行命令」や「強制執行」の手続きに移ることができます。「履行命令」や「強制執行」については後に詳しく解説します。

  3. (3)履行勧告の注意点│調停や審判が必須

    履行勧告の制度を利用するためには、家庭裁判所で調停や審判、訴訟といった裁判上の手続きを経て養育費の取り決めをしている必要があります。

    そのため、離婚協議をして離婚協議書や公正証書を作成していても、履行勧告の制度を利用することができません。

    履行勧告を利用したい場合は、必ず離婚調停や離婚訴訟(裁判)などを行って、養育費の取り決めをしましょう。

3、養育費の履行勧告を無視された場合の対応①|履行命令

養育費を支払うように履行勧告を行っても無視されてしまった場合、「履行命令」の手続きを行うことができます。

履行命令の手続きの内容や流れについて解説します。

  1. (1)履行命令とは

    「履行命令」は、家庭裁判所から支払い義務者に対して「期限内に取り決め通り養育費を支払いなさい」という義務の履行命令を出してもらう制度です。

    罰則のない履行勧告とは異なり、正当な理由もなく履行命令に従わない場合は、10万円以下の罰金(過料)が課される可能性があります。

    ただし、履行勧告と同様に履行命令も法的な強制力はないため、相手の給料を差し押さえて債権を回収することはできません。

  2. (2)履行命令の流れ

    履行命令が出されるまでの流れは以下の通りです。

    1. ① 権利者が家庭裁判所に申し立てる
    2. ② 義務者への陳述聴取が行われる
    3. ③ 履行命令が出される


    詳しくみていきましょう。

    ① 権利者が家庭裁判所に申し立てる
    まずは支払いを受ける権利者が家庭裁判所に申し立てを行います。

    家庭裁判所はどこでもいいわけではありません。養育費の支払い義務を定めた調停や審判をした家庭裁判所に申し立てる必要があります。

    ② 義務者への陳述聴取が行われる
    家庭裁判所は履行命令を出す前に、義務者へ陳述聴取を行わなければなりません。

    ただし、家庭裁判所からの呼び出しに義務者が正当な理由もなく応じない場合は、陳述聴取をせずにそのまま履行命令が出ることもあるでしょう。

    ③ 履行命令が出される
    家庭裁判所から義務者に対して、相当の期限を定めて「養育費の支払い義務を果たしなさい」という履行命令が出されます。

    この履行命令に従わない場合、ケース・バイ・ケースではありますが、家庭裁判所によって10万円以下の過料に処されることもあります。

4、養育費の履行勧告を無視された場合の対応②|強制執行

養育費の履行勧告を無視された場合の対応方法に、前述の「履行命令」の他に「強制執行」という方法があります。

強制執行の内容とその流れを解説していきます。

  1. (1)強制執行とは

    「強制執行」は、債権者が裁判所に申し立てを行うことで、債務を履行しない債務者に対して、裁判所が強制的に債務を履行させる手続きです。この制度を利用することで、養育費を支払わない義務者から、強制的に養育費を徴収することができます。

    強制執行には「直接強制」と「間接強制」という2つの方法があります。

    ① 直接強制
    「直接強制」とは、債務を履行しない債務者に、直接的に債務を履行させる方法です。たとえば、養育費を支払わない相手に対して直接強制を行うことで、相手の給与や財産を差し押さえて、強制的に支払い義務を履行させることができます。原則、金銭債務に対して利用されるのは、この「直接強制」です。

    ② 間接強制
    「間接強制」は、債務を履行しない債務者に、「一定期間内に履行しなければ債務とは別に罰金を課す」と警告することで、心理的プレッシャーを与えて履行を促す方法です。

    従来、間接強制は面会交流(非親権者と子どもが離婚後に交流すること)のような、直接強制が認められていないケースに利用されていました。しかし、平成16年(2004年)の民事執行法改正によって、金銭債務である養育費についても間接強制が認められています。

    強制力のない「間接強制」よりも、「直接強制」で給料を差し押さえる方が養育費の未払い分を回収できる可能性が高いでしょう

    しかし、給料を差し押さえられたことで債務者が職場に居づらくなり辞めてしまい、かえって養育費が支払われなくなってしまうこともあります。どちらが有効な方法であるかは、離婚問題の実績がある弁護士に相談し、「間接強制」も併せて検討することをおすすめします。

  2. (2)強制執行の流れ

    強制執行で最も多く利用される直接強制の中でも、給料や預貯金を差し押さえる「債権執行」という手続きの流れをご紹介します。

    1. ① 債権者が地方裁判所に申し立てる
    2. ② 差押命令が出される
    3. ③ 差し押さえる


    詳しくみていきましょう。

    ① 債権者が地方裁判所に申し立てる
    まずは債権者が地方裁判所に申し立てます。申し立てる先は、原則「債務者の住所地を管轄する地方裁判所」です。

    ② 差押命令が出される
    申し立てが裁判所に認められると、債権差押命令が発令されて各当事者に書類が送達されます。債務者と第三債務者に送達されるのは債権差押命令、債権者には送達通知書です。

    「第三債務者」は、債務者に対してさらに債務を負っている相手のことで、債権執行に協力する義務があります。たとえば、債務者の給料を差し押さえる場合は「雇用主」、債務者の預貯金を差し押さえる場合は「金融機関(銀行など)」が第三債務者です。

    ③ 差し押さえる
    債務者への債権差押命令が送達された日から一定期間経過すると、債権者は第三債務者に対して取り立てることができるようになります。債権者の持つ債権の種類によって期間は異なりますが、養育費が取り立て可能になるまでの期間は、送達日から「1週間」です。

    そのため、養育費については「1週間」経つと、債権者が直接滞納分を取り立てることが可能になります。たとえば、給料を差し押さえたい場合は、債権者自ら債務者の勤務先に連絡して給料を回収することができるのです。

5、養育費の請求を弁護士に相談するメリット

養育費の請求は、離婚調停で決めたか離婚協議で決めたかによって手続きが異なります。また、選択肢もいくつかあるため、自分のケースではどの方法を取るべきなのかわからない場合もあります。

養育費の請求について弁護士に相談すれば、状況に応じて選択するべき対応方法についての的確なアドバイスを受け、円滑な養育費の回収を期待できます。

また、履行勧告や強制執行といった法的な手続きを弁護士に任せることも可能です。

さらに、「あまり履行勧告や強制執行のような裁判手続きをしたくない」「できるなら話し合いで解決したい」という場合もあるでしょう。その場合、弁護士が代わりに元配偶者と交渉を行ったり、内容証明郵便を送ることで支払いの督促をしたりすることが可能です。

養育費の請求はケース・バイ・ケースで対応方法も異なるため、まずは弁護士に相談することがおすすめです

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6、まとめ

履行勧告には法的な強制力がありません。そのため養育費の履行勧告を無視された場合は、「履行命令」や「強制執行」といった、より効力の強い手続きを検討する必要があります。

法的な手続きにご不安な場合や養育費の請求について法的なアドバイスを受けたい場合、相手との交渉を任せたい場合は、ぜひベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士にご相談ください。

さまざまな離婚問題を解決した弁護士が、お話をお伺いします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています