しつけと虐待の違いは? 法的な見解と逮捕されそうなときすべきこと
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福岡県警察の統計資料によると、令和5年の福岡県内で発生した児童虐待事件の検挙件数は113件で、前年よりも1.8%増加しました。
子どもが自らを律することができるように指導するのは「しつけ」ですが、子どもを暴力などで押さえつけるのは「虐待」に当たります。特に体罰は児童虐待に当たると判断される可能性が高いため、決して行ってはなりません。もし虐待を理由に警察から取り調べを求められたら、早めに弁護士へご相談ください。
本記事では、しつけと虐待の違いや、体罰などの虐待に対して成立する犯罪、虐待を理由に取り調べなどを求められた場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。


1、しつけと虐待の違いは?
子どもに対する「しつけ」と「虐待」は、まったく異なる行為です。しつけは子どもの成長を助けるために必要な指導を指しますが、虐待は子どもの心身に害を与える行為であり、法律で禁止されています。
しつけと虐待の違いを理解した上で、決して虐待をしないように気を付けましょう。
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(1)しつけとは
「しつけ」とは、子どもの人格や能力を伸ばし、社会で自律的に生活できるように促すための適切な指導のことです。
たとえば以下の行為は、子どもの成長に役立つ適切なしつけに該当します。- 悪いことをした子どもに対して、なぜやってはいけないのかを説明し、二度としないように注意する
- 人前での適切な振る舞い方をあまり理解していない子どもに対して、マナーやルールを教えて守るように伝える
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(2)虐待とは
「虐待」とは、親や保護者が子どもに対して行う、次のような行為を指します。
① 身体的虐待
子どもに暴力を振るい、身体的な苦痛を与える行為です。
(例)
- 叩く、殴る、蹴る
- タバコの火を押し付ける
- 逆さづりにする
- 家の外に閉め出す
② ネグレクト
子どもの養育を拒否して放置したり、他の人による虐待を見過ごしたりする行為です。
(例)
- 衣食住の世話をせずに放置する
- 病気にかかったのに、医療機関へ連れて行かない
- 小さい子どもを家に残したまま外出する
- 学校に行かせない
③ 心理的虐待
子どもに対して精神的苦痛を与え、自尊心を傷つける行為です。
(例)
- 無視する
- 罵声を浴びせる
- 言葉で脅す
- 他のきょうだいとの間で差別をする
- 子どもの目の前で夫婦喧嘩をしたり、配偶者に暴力を振るったりする
④ 性的虐待
子どもに性的な刺激や行為をさせるなど、子どもを性的に搾取する行為です。
(例)
- 性交などの性的暴行をする
- 性器や性交を見せる
- ポルノグラフィーの被写体にする
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(3)しつけと虐待の境界線
客観的には虐待に該当する行為も、「子どもの成長のため」と考えて行われている場合があります。
適切なしつけとは、子どもが感情や行動を自分でコントロールできるように導くことです。
これに対して、子どもの行動を力でコントロールしようとすることは虐待に当たります。
殴る・蹴るなどの身体的な暴力を振るった場合は、直ちに虐待に当たる可能性が高いといえます。暴力を振るわなくても、子どもを侮辱するなどして精神的なダメージを与える行為も虐待に当たる可能性が高いです。
「子どもの成長のため」だとしても、上記のような虐待をするのではなく、子ども自身で考えて理解することを促すような指導をしなければなりません。
そのためには、感情的にならない、丁寧に子どもにもわかりやすい言葉で説明する、子どもの話をよく聞くなど、子どもを一人の人間として尊重し「対話」する姿勢を心がけましょう。
2、体罰をしてはいけない理由と法規制の動き
子どもに対する体罰は、虐待の最たるものです。体罰とは、人に罰を与える目的で、身体に暴力を振るう行為をいいます。
子どもに対する体罰は、その成長や発達に悪影響を及ぼします。人格的なゆがみや非行を招くことがあり、トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)によって大人になってからも苦しむ可能性もあります。
体罰は、子育てに当たって絶対にしてはいけない行為です。
近年、体罰の弊害が大きく問題視されており、それに伴い、体罰を禁止するための法規制が相次いで整備されています。
たとえば学校教育法では、校長や教員が児童・生徒・学生を懲戒するにあたり、体罰を加えることができない旨が明記されました(学校教育法第11条)。
児童福祉法では、児童相談所長などが児童福祉のための措置をとるにあたり、体罰やその他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない旨が明記されました(児童福祉法第33条の2第2項、第47条第3項)。
民法上も、従来認められていた親権者の「懲戒権」の規定が削除されました(旧民法822条)。懲戒権の規定は、かつて体罰を容認する趣旨の解釈がなされていたことがあることを踏まえたものです。
その代わりに、親権者が子どもの監護や教育を行うに当たっては、子の人格を尊重し、体罰やその他の子どもの心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない旨が明記されました(民法第821条)。
このように、体罰を含む虐待が違法であることは明確化されています。親としては、子どもに対して虐待をしないように、いっそう強く留意する必要があります。
3、子どもに対して体罰をした場合に成立する犯罪
子どもに体罰を加えた親は、暴行罪・傷害罪・強要罪などの罪に問われる可能性があります。場合によっては実刑判決が下されることもあるため、体罰は絶対に避けるべき行為です。
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(1)暴行罪
子どもに対して暴力を振るったものの、子どもがけがをしなかった場合には「暴行罪」が成立する可能性があります(刑法第208条)。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。 -
(2)傷害罪
子どもに対して暴力を振るった結果、子どもがけがをした場合には「傷害罪」が成立する可能性があります(刑法第204条)。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。傷害罪は極めて重い犯罪であり、悪質な場合は、初犯で実刑もあり得ます。 -
(3)強要罪
子どもを脅し、または暴力を用いて何らかの行為を強要した場合には「強要罪」が成立する可能性があります(刑法第223条1項)。
強要罪の法定刑は「3年以下の懲役」です。
虐待による逮捕の場合、初犯の量刑や刑事手続きについてはこちらのコラムをご覧ください。
4、子どもへの体罰を理由に、取り調べなどを求められたらどうすべき?
子どもに対する体罰の疑いを持たれた場合は、児童相談所から質問を受けたり、警察から取り調べを求められたりする可能性があります。
特に警察から取り調べを求められた場合は、その後に逮捕・起訴されて刑事罰を受け、子どもと暮らせなくなる可能性があるので、慎重に対応しなければなりません。
弁護士に相談して、どのように対応すべきかについてアドバイスを求めましょう。
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(1)児童相談所から質問された場合の対応
児童相談所の職員は、近隣住民の通報などをきっかけに、突然家を訪ねてくることがあります。
その際、職員に対して怒鳴り散らすなど、不誠実な対応をとってはいけません。児童相談所側が虐待の疑いを深め、より厳しい調査・処分を受ける可能性が高まります。
児童相談所の職員から質問されたら、できる限り穏やかに対応しましょう。質問に対しては冷静な言葉で正直に答えて、調査に協力することが大切です。 -
(2)警察に取り調べを求められた場合の対応
警察に取り調べを求められた場合は、子どもに対する体罰などの虐待を強く疑われています。反抗的な態度で軽率な回答をすると、それ自体が調書として証拠となったり、逮捕・起訴されて刑事罰を受けるおそれに繋がりかねませんので、注意が必要です。
児童相談所から質問された場合とは異なり、警察から取り調べを受ける被疑者には「黙秘権」が保障されています。警察官の質問に対しては、答えなくても構いません。むしろ、自分にとって不利な事実を認めることに対しては、かなり慎重になる必要があります。
警察官の取り調べに向かう前には、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。話してもよいことと話すべきではないことが整理され、取り調べで不用意な発言をしてしまうリスクを抑えられます。
状況によっては、完全に黙秘するようにアドバイスされるかもしれません。その場合は、黙秘すべき理由について弁護士に説明してもらい、納得できれば指示に従いましょう。
取り調べでの対応は、その後の刑事手続きの流れを大きく左右します。弁護士のサポートを受けながら、重い刑事処分を回避できるような対応を心がけましょう。
【警察で取り調べを受ける際、子どもはどうすればいい?】
警察での取り調べは数時間に及ぶことがあり、子どもの生活に直接影響します。取り調べに向かう前には、次のような対応が必要です。
① 短時間の取り調べの場合
短時間の取り調べであれば、配偶者がいる場合は子どもの監護を依頼しましょう。配偶者が不在の場合は、実家の親族や信頼できる知人に一時的な預かりをお願いすることが考えられます。また、子どもが保育園・幼稚園・学校に通っている場合は、お迎えが遅れる可能性がある旨を必ず連絡しましょう。
② 長時間に及ぶ場合
取り調べが長時間に及ぶ場合は、子どもの生活に支障が出ないよう、可能な範囲で警察と時間調整を行うことも検討すべきでしょう。子どもの監護者を確保できない場合は、一時的に児童相談所による保護を検討することも必要です。
③ 子どもへの説明
子どもへの説明は特に慎重に行う必要があります。年齢に応じて、「お仕事の関係で警察署に行く必要がある」など、適切な説明を心がけましょう。子どもを不安にさせないためにも、いつ頃戻れるかなどの見通しをできる限り伝えることが大切です。また、監護を依頼する人に対しては、子どもの生活習慣やケアのポイントを詳しく伝えておくことが重要です。
取り調べに出向く前には、以下の準備をしておくといいでしょう。- 緊急時に子どもを預ける先のリスト
- 子どもの持病や服用している薬の情報整理
- 子どもの学校・保育園などの連絡先リスト
- 子どもの生活習慣や注意点をまとめたメモ
このような準備があれば、取り調べの際にも、子どもの生活への影響を最小限に抑えることができます。
お問い合わせください。
5、まとめ
子どもに対するしつけと虐待は、全く違います。
しつけは子どもの自立や成長を促す上で必要ですが、虐待は子どもに対して悪影響を及ぼすのみです。子どもに対する体罰や侮辱などは、どのような動機であっても虐待に当たるので、決して行ってはなりません。
子どもに対して虐待をすると、児童相談所から質問を受けたり、警察から取り調べを求められたりする可能性があります。
特に警察の取り調べには、不適切な対応をすると刑事罰を受け、子どもと一緒に暮らせなくなるリスクが高まるので注意が必要です。弁護士のアドバイスを受けて、適切な心構えを整えてから取り調べに臨みましょう。
ベリーベスト法律事務所は、刑事事件に関するご相談を随時受け付けております。虐待を疑われてしまった方に対しても、経験豊富な弁護士が親身になってアドバイスし、重い処分を避けられるようにサポートいたします。
虐待を疑われて警察から取り調べを求められた方は、お早めにベリーベスト法律事務所 北九州オフィスへご相談ください。
お問い合わせください。
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