公務執行妨害容疑で逮捕! 釈放してもらうために家族ができること

2021年04月15日
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公務執行妨害容疑で逮捕! 釈放してもらうために家族ができること

「公務執行妨害罪容疑で逮捕された」というニュースを目にすることは珍しくありません。福岡県内でも令和元年10月、福岡市内の路上で職務質問中の警察官を車で引きずりケガをさせたとして男が逮捕されています。

家族や知人が、警察官に暴力を振るって逮捕されてしまえば、多くの方がどうしたらいいのかわからないのではないでしょうか。特に「公務執行妨害」は、相手が公務員であることから、通常の一般人同士のトラブルとは違う対応が求められ、対応に注意すべき点があります。

今回は、あなたの家族や知人が公務執行妨害で逮捕されたケースを想定し、逮捕される条件やあなたができることについて、北九州オフィスの弁護士が解説します。

1、公務執行妨害罪で逮捕されるケースとは

公務執行妨害罪は、「公務員が」「職務中に」「暴行または脅迫」をした場合に成立する犯罪です。刑法第95条1項に規定されています。

具体的に、どのような場合に逮捕されるのか、条件を解説します。

  1. (1)公務員にあたる人とは

    冒頭の事件では、警察官に対する行為が問題になりました。そもそも、「公務執行妨害」の罪が問われることになるときは、妨害の相手が公務員である必要があります。

    つまり、警察官以外にも、市役所など役所の職員、国会議員、県・市議会議員、国公立学校の教員、税務職員、消防士、自衛隊員などが「公務員」に含まれます。つまり、該当の方々の職務を妨害すると、公務執行妨害の罪に問われることになります。

    なお、身分上は「公務員」ではなくても、国や地方自治体などに依頼された公益性・公共性が高い公務に従事する職員の職務を妨害したときも、公務執行妨害に問われます。

  2. (2)職務執行中の条件とは

    公務執行妨害は、「公務員の業務中」に行われる犯罪です。もっとも多いケースとしては、冒頭の事例のように、警察官が職務質問中に暴行をはたらくというものです。そのほかにも、区役所の職員とトラブルになって胸ぐらをつかむ、公立学校で授業を妨害したケースなどが該当します。

    公務執行妨害の設定により保護しようとしているものは、「公務員個人」ではありません。公務員が従事する「公務」そのものです。よって、職業が公務員である個人が休憩しているときや休暇中に暴行を加えたり、脅迫したりしたとしても、「公務執行妨害罪」に問われることはありません。ただし、当然のことですが、暴行罪や脅迫罪に問われることはあるでしょう。

  3. (3)暴行または脅迫の内容とは

    繰り返しになりますが、公務執行妨害罪が成立する条件として、「公務員が従事している職務」が、「暴行または脅迫によって妨害された」ことが必要です。

    「暴行」については、殴る・蹴るなどの直接的な暴力行為だけでなく、胸ぐらをつかむ、肩を押す、腕を振り払うなど、何らかの力を加えれば成立する可能性があります。また、職務質問中のパトカーを蹴る、警察官の誘導灯を壊すような行為も含まれます。脅迫にあたる行為としては、役所の窓口職員を「殺してやる」など脅す行為が典型的な例です。

2、他の犯罪も成立する可能性も! 公務執行妨害罪の注意点

多くの刑法では、たとえば暴行行為について罪を問うものになりますが、公務執行妨害は、前述のとおり、「公務の執行を妨害した」事実について罪を問う性質の犯罪です。一般的な犯罪とはやや異なる性質があります。

具体的な違いや、この違いがあるからこそ発生する注意点について解説します。

  1. (1)公務執行妨害と他の犯罪が成立したときはどうなる?

    公務執行妨害罪は、「暴行または脅迫」を加えることが条件なので、他の犯罪も成立しやすい特徴があります。

    たとえば、駐車違反の取り締まりをしようとした警察官を殴り、負傷させてしまったとしたら、1回の行為で「公務執行妨害罪」だけでなく「傷害罪」に問われることになります。このように、ひとつの行為がふたつ以上の犯罪に該当することを、法律用語で「観念的競合」といいます。

    観念的競合が発生した事件では、成立する犯罪の中でもっとも重い刑罰だけを受けることになります。

    なお、公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役若しくは禁錮、又は50万円以下の罰金」とされています。もしあなたの家族が逮捕されてしまったときは、観念的競合に該当する他の犯罪と比べてみましょう。

    なお、「懲役(ちょうえき)」とは、刑務所で労働が義務付けられる刑罰で、「禁錮(きんこ)」は、労働を課されないまま身柄の拘束を受ける刑罰です。

  2. (2)公務執行妨害と一緒に成立しやすい犯罪とは

    公務執行妨害罪に問われるとき、状況によって観念的競合となりやすい犯罪は以下のとおりです。

    ●暴行罪
    暴行罪は、相手に対して「不法な有形力」を加えた場合に成立する犯罪です。具体的には、殴る、蹴る、突き飛ばすなどの行為に加え、唾を吐きかける、石を投げつける、狭い場所で刃物を振り回すなどの行為も暴行にあたります。

    冒頭にとりあげた事件では、男性が職務質問中の警察官の胸ぐらをつかんだという暴行行為があります。このような場合、公務執行妨害罪と一緒に暴行罪も成立しますが、暴行罪は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と、公務執行妨害罪より軽い刑罰です。そのため、有罪になったときは、公務執行妨害罪の刑罰が科されることになります。

    ●傷害罪
    暴行を加えた結果、相手が負傷した場合は、傷害罪が成立します。傷害罪の罰則は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」と、公務執行妨害罪よりも重いので、相手にケガをさせたような場合は、傷害罪の重い刑罰を受ける可能性があります。

    ●脅迫罪
    脅迫罪は、相手の生命、財産などに危害を加えることを伝えて脅す犯罪です。公務員を脅して業務を妨害すると、脅迫罪も成立しますが、「2年以下の懲役又は30万円の罰金」なので、公務執行妨害罪の刑罰に処されます。

    ●器物損壊罪
    職務質問中に、腹をたてて警察のパトカーを蹴り、壊すなどすると、器物損壊罪が成立する可能性があります。ただし、罰則は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」なので、公務執行妨害罪の刑罰が適用されます。

3、公務執行妨害罪特有の事情とは? 逮捕された場合の注意点

暴行事件や傷害事件のように、被害者がいる犯罪の場合、被害者と示談をすることが今後の刑事処分を決めていくうえで大きな意味を持ちます。ご家族としても、本人をサポートするために示談を検討することがあるかもしれません。

しかし、公務執行妨害事件のケースでは、基本的に示談はできません。

前述のとおり、公務執行妨害罪は、国や市区町村の業務を守ることを目的として規定されています。たとえば、交通違反を取り締まられるのは嫌なものですが、取り締まってくれなければ安全な交通が難しくなります。つまり、公務員が担う業務は、国の利益にとって必要不可欠な仕事であるため、保護されているともいえます。

つまり、理論上、被害にあったのは「公務」であり、実質的な被害者は「国」や「国民」が該当します。国と示談することはできないため、示談はできないということになります。

ただし、実際に暴行を受けた「警察官等の公務員個人」という相手がいます。暴行の被害を受けた警察官個人に対して示談してもらおうと思うかもしれません。しかし、相手が警察官であれば、示談に応じてくれる可能性は極めて低いと考えたほうがよいでしょう。

4、公務執行妨害罪で逮捕された場合の手続きの流れ

警察官の職務執行中に暴力を振るって公務執行妨害で現行犯逮捕されるケースは少なくありません。逮捕されてしまうと、どのような扱いを受け、どうすればよいのかについて解説します。

  1. (1)公務執行妨害罪で逮捕後の流れとは

    通常の犯罪では、逮捕期間が最長72時間続き、警察での取り調べを受けます。警察では、刑事責任を問う必要があると判断すれば、事件を検察へ送致します。

    事件が送致されると、検察は、さらに身柄を拘束したまま捜査を行う「勾留」を行うかどうかを検討することになります。検察が必要と判断し、裁判所に対して行われた「勾留請求」が認められれば、最大23日間も留置場や拘置所で身柄を拘束され続けてしまうケースもあるでしょう。

    ただし、公務執行妨害事件の場合は、計画的な犯行というより、カッとなって起こすケースが少なくないようです。そのため、本人の住所が定まっていて、身元引受人となる家族もいれば、証拠隠滅の恐れもないとみなされる可能性が高いものです。さらに本人が反省もしていれば、逮捕されても比較的早く釈放されることもあるでしょう。

    ただし、行為の態様が悪質で、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるなどと判断されると、勾留される可能性が高まります。

  2. (2)公務執行妨害事件で起訴を回避するためには?

    前述のとおり、公務執行妨害事件では、比較的早く釈放されやすい特徴があります。しかし、逮捕から勾留が決まるまでの72時間の間は、家族が本人と面会して反省を促すなどの説得ができません。自由に面会して家族からのメッセージを伝えたり、反省を促したり、捜査対応についてアドバイスができるのは、弁護士だけです。

    そのため、まずは家族が弁護士に相談して、早期の釈放に向けた活動を相談することをおすすめします。

    なお、警察から検察へ事件が送致されると同時に釈放されたときは、「在宅事件扱い」として、捜査はその後も続行します。後日、検察官に呼び出されて、裁判にかけられるかどうかが判断されることになるのです。ご家族としては、本人を見守り、呼び出しがあれば応じるように促す必要があります。

    ただし、検察官が、今回の公務執行妨害事件を起訴しない、つまり裁判にかけないと決めると、「不起訴処分」となります。不起訴となれば、前科はつきません。しかし、起訴されると99%が有罪となるため、無罪を取ることは極めて難しいものです。起訴されてしまうと前科がつくと考えておいたほうがよいでしょう。

    もし家族が逮捕されてしまったら、個人での対応が非常に難しくなるでしょう。まずは「不起訴」処分の獲得と、早期の釈放を目指して、弁護士を依頼することをおすすめします。弁護士は、本人が反省している姿勢や、他に余罪などがないことなどを、警察や検察へしっかり伝えていく弁護活動を行います。

    また、起訴された場合でも、略式裁判といって、罰金を納めれば刑務所に入ることなく事件が終了するケースも少なくありません。ただし、反論の機会がないため、言い分がある場合には弁護士と相談して、あえて正式裁判にするかなどを検討することもひとつの方法となります。

    略式裁判にならず、正式裁判になった場合は、法廷で反省の態度などを裁判官に十分に理解してもらうことが大切です。執行猶予つきの判決になれば、刑務所に入らず、すみやかに社会復帰することが可能です。

5、まとめ

今回は、あなたの家族が公務執行妨害罪の容疑者として逮捕されたケースを想定し、公務執行妨害罪の成立条件から、そのほかに問題となる犯罪、さらには逮捕された場合の流れや、家族ができる最良の対処方法について、解説しました。

公務執行妨害罪は、相手と示談ができません。だからこそ、弁護士を通じて反省の情を伝えることや、今後再犯しないことを、きちんとアピールする必要があるでしょう。たとえ身柄の拘束を受けない罰金刑でも、有罪判決が下りれば「前科」がついてしまいます。将来にわたる影響が出る可能性もあることから、できるかぎり起訴を回避できる方法を探ったほうがよいといえます。

北九州において、公務執行妨害容疑で家族が逮捕されてしまったときは、諦めずに、ベリーベスト法律事務所・北九州オフィスに相談してください。刑事事件対応の経験が豊富な北九州オフィスの弁護士が、状況に適した弁護活動を通じて、将来へ残る影響を最小限にするよう尽力します。

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