交通事故のトラウマ(PTSD)の慰謝料請求と後遺障害等級の概要
- 後遺障害
- 事故
- トラウマ
福岡県警察が公表している交通事故の統計資料によると、令和5年に北九州市で発生した交通事故の発生件数は3910件で、前年よりも39件減少しています。
交通事故で強いショックを受けると、それがトラウマとなりPTSDを発症することがあります。PTSDは、目に見える怪我ではありませんが、後遺障害として認められれば、後遺障害慰謝料を請求することができます。
今回は、交通事故でPTSD(トラウマ)を発症したときの、後遺障害の認定基準や慰謝料相場について、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故被害で受けたトラウマ|専門家のサポートが不可欠な理由
交通事故のトラウマとは、どのようなものなのでしょうか。以下では、トラウマ・PTSDの定義と具体的な症状について説明します。
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(1)トラウマ・PTSDとは?
トラウマとは、心理的・精神的に大きな衝撃を受けて、その影響が心の傷として長く残る状態をいいます。トラウマのことを「心的外傷」や「精神的外傷」と呼ぶこともあります。
PTSDとは、「心的外傷後ストレス障害」の略で、トラウマになるような圧倒的な出来事(外傷的出来事)をきっかけに発症する精神疾患をいいます。
交通事故により命の危険を感じるようなトラウマ体験をすると、そのことがきっかけとなり、PTSDを発症することがあります。 -
(2)PTSD(トラウマ)の具体的な症状
PTSD(トラウマ)の具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- ① 侵入症状・再体験症状
侵入症状・再体験症状とは、交通事故により強い恐怖や無力感を体験すると、その記憶が何度も思い出されて、その場に連れ戻されたような感じやそのときと同じ感情がよみがえることをいいます。 - ② 過覚醒症状
交通事故による強いストレスで、自室神経に乱れが生じ、ドキドキしたり、物音に驚きやすくなったり、怒りっぽくなるなどの症状が生じます。 - ③ 回避・麻痺症状
侵入症状・再体験症状を引き起こす原因になるような出来事を避けようとして、さまざまな症状が生じます。たとえば、現実感がなくなって感情が麻痺したり、事故を思い出させるものに近寄れなくなったり、自分の体験を遠い出来事のように感じることがあります。 - ④ 気分と認知の陰性変化
事故による精神的トラウマが原因で、さまざまなことに興味や関心を持てなくなったり、他者から孤立していると感じたり、過剰に否定的な感情を抱くようになるなど症状が生じます。
- ① 侵入症状・再体験症状
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(3)PTSD(トラウマ)の治療には医療機関の受診が必要
PTSD(トラウマ)は、心の病気ですので事故をきっかけとして上記のようなトラウマ反応があらわれたときは、すぐに専門の医療機関を受診しましょう。
医療機関では、精神療法(心理療法)や対症療法(薬物療法)などにより、PTSDの改善に向けた治療を行います。
2、トラウマ(PTSD)を理由に慰謝料請求できるか
トラウマ(PTSD)を理由に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
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(1)トラウマ(PTSD)を理由とする慰謝料請求の可否
トラウマ(PTSD)を理由に慰謝料請求をするためには、交通事故とトラウマ(PTSD)の発症との間に因果関係が認められなければなりません。身体的な怪我であれば、交通事故との因果関係が明確ですが、心の怪我であるトラウマ(PTSD)は交通事故との因果関係が争いになることも少なくありません。
以下では、トラウマ(PTSD)を理由とする慰謝料請求が認められる可能性があるケースと認められない可能性があるケースを紹介します。
- ① 慰謝料請求が認められる可能性があるケース
- PTSDがDSM-ⅣやICD-10という基準を満たしている
- 死の危険のあるような重大な事故
- ② 慰謝料請求が認められない可能性があるケース
- 医師の診断があっても、DSM-ⅣやICD-10という基準を満たしていない
- わずかな修理費のみの比較的軽微な事故
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(2)トラウマ(PTSD)を理由とする慰謝料請求の内容
交通事故とトラウマ(PTSD)との因果関係が認められれば、以下のような慰謝料を請求することができます。
- ① 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料とは、交通事故で怪我をして入通を余儀なくされたことにより生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入通院慰謝料は、治療期間や実際の入通院日数に基づいて計算されますので、治療期間が長くなればなるほど、金額は高くなります。 - ② 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故で後遺障害が生じたことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
PTSDを理由として、後遺障害慰謝料を請求するには、PTSDが後遺障害と認定されなければなりません。具体的な認定基準や慰謝料額の目安については、後述します。
- ① 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
3、PTSDの後遺障害等級認定の概要と慰謝料の目安
PTSDで後遺障害慰謝料を請求するには、PTSDを理由とする後遺障害等級認定を受ける必要があります。以下では、PTSDと診断された場合に該当し得る後遺障害等級と慰謝料の目安について説明します。
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(1)PTSDで該当し得る後遺障害等級
PTSDが後遺障害として認定されるには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- (ア)の精神障害のうち1つ以上が認められること
- (イ)のうち1つ以上の能力について、欠如や低下が認められること
(ア)精神症状 (イ)能力に関する判断項目 - ① 抑うつ状態
- ② 不安の状態
- ③ 意欲低下の状態
- ④ 慢性化した幻覚・妄想性の状態
- ⑤ 記憶または知的能力の障害
- ⑥ その他の障害(衝動性の障害・不定愁訴など)
- ① 身辺日常生活(食事・入浴・更衣など)
- ② 仕事、生活に積極性・関心を持つこと
- ③ 通勤・勤務時間の順守
- ④ 普通に作業を持続すること
- ⑤ 他人との意思伝達
- ⑥ 対人関係・協調性
- ⑦ 身辺の安全保持・危機の回避
- ⑧ 困難・失敗への対応
なお、PTSDの症状に応じた具体的な後遺障害等級認定の基準は、以下のとおりです。
① 9級10号|通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの(労災障害認定の際の基準による表現)
【就労している者または就労の意欲はあるものの就労していない者】- (ア)の精神障害のうちいずれか1つ以上が認められる
- (イ)のうち②~⑧のいずれか1つの能力が失われている、または(イ)のうち4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害が残存している
【就労意欲の低下または欠落により就労していない者】- (イ)のうち①について、ときに助言や援助を必要とする程度の障害が残存しているト
② 12級13号|通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの(労災障害認定の際の基準による表現)
【就労している者または就労の意欲はあるものの就労していない者】- (ア)の精神障害のうちいずれか1つ以上が認められる
- (イ)のうち4つ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害が残存している
【就労意欲の低下または欠落により就労していない者】- (イ)のうち①について、適切にまたはおおむねできるもの
③ 14級9号|通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの(労災障害認定の際の基準による表現)
- (イ)の1つ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害が残存している
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(2)PTSDで請求できる慰謝料の目安
後遺障害慰謝料の算定基準には、以下の3つの基準が存在します。
- 自賠責保険基準
- 任意保険基準
- 裁判所基準(弁護士基準)
どの基準により慰謝料を算定するかによって、被害者に支払われる慰謝料の金額は大きく変わってきます。任意保険基準による慰謝料の計算方法は、一般に公開されていませんので、以下では、自賠責保険基準と裁判所基準によるPTSDの後遺障害慰謝料の金額を紹介します。
等級 自賠責保険基準 裁判所基準 9級10号 249万円 690万円 12級13号 94万円 290万円 14級9号 32万円 110万円
このように自賠責保険基準と裁判所基準では、後遺障害慰謝料の金額に大きな差があり、9級10号の後遺障害では、441万円もの差額となります。
4、適切な後遺障害等級認定のためにも弁護士に相談を
PTSD(トラウマ)による適切な後遺障害等級認定を受けるためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)PTSD(トラウマ)の後遺障害等級認定のサポートができる
PTSD(トラウマ)は、身体的な外傷よりも判別がしにくいため、事故との因果関係やPTSDの有無に関して争いが生じるケースも少なくありません。
また、後遺障害等級認定も簡単には認められませんので、少しでも可能性を高めるためにも交通事故の実績があり、医療コーディネーターや医師との連携が可能な弁護士のサポートを受けることが重要です。
等級認定に必要な検査や治療を受けることができ、後遺障害診断書の作成もスムーズに進むことが期待できます。 -
(2)認定結果に不満があるときは異議申し立てのサポートができる
後遺障害等級認定の結果に不満がある場合には、異議申し立てを行うことができます。
ただし、異議申し立てをしても判断の基礎となる資料が同じであれば、同様の結論になりますので、結論を覆すためには新たな証拠の提出が必要になります。
弁護士は、異議申し立ての手続きに対応するだけでなく、異議申し立てを有利に進めるための証拠収集のサポートもします。異議申し立てをすれば、確実に結論が変わるというわけではありませんが、弁護士のサポートを受けることでその可能性を高めることができるでしょう。 -
(3)交通事故の対応を一任できる
交通事故によりトラウマを抱えることになった被害者は、仕事や日常生活にも大きな支障が生じているはずです。そのような状態で保険会社との交渉ややり取りを行うのは、症状を悪化させるリスクもあります。
そのため、治療に専念するためにも弁護士に依頼して、交通事故の対応を一任するのがおすすめです。交通事故弁護の実績がある弁護士に依頼すれば、保険会社との示談交渉や訴訟手続きなどの対応をすべて任せることができ、負担を大幅に軽減することができるでしょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
交通事故により強いショックを受けると、トラウマが生じ、PTSDを発症することがあります。PTSDが後遺障害として認定されれば、後遺障害慰謝料や逸失利益といった損害を請求することが可能になりますので、適正な後遺障害等級認定を受けることが重要になります。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士と医療コーディネーターにより構成された交通事故専門チームが、適切な後遺障害等級認定が受けられるよう、しっかりとサポートします。事故によるPTSDの後遺障害でお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所
北九州オフィスまでお気軽にご相談ください。
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