労災認定には業務起因性が関係している? 弁護士がわかりやすく解説

2025年01月29日
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労災認定には業務起因性が関係している? 弁護士がわかりやすく解説

令和5年に福岡県内で発生した労働災害は7595件で、死亡者数は33名でした。

会社の業務を原因とするけがや病気などについて労災(労働災害)の認定を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」が認められることが必要です。特に業務起因性が認められるためには、労災認定基準を踏まえた資料を提出することが大切になります。

本記事では、労災認定要件のひとつである「業務起因性」の基礎知識や、労災保険給付の種類・申請手続きなどをベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。

1、業務起因性とは?

「業務起因性」とは、労働者のけがや病気などが業務によって発生したと評価するのが相当であることをいいます

労災には、業務が原因で発生する「業務災害」と、通勤中に発生する「通勤災害」の2種類があります。業務起因性は、業務災害について労災保険給付を受けるための要件の一つです。

  1. (1)業務災害の労災認定要件|業務遂行性と業務起因性

    「業務災害」とは、事業主の業務に起因する労働者の負傷・疾病・障害・死亡(以下「負傷等」と総称します。)をいいます(労働者災害補償保険法7条1項1号参照)。
    労働基準監督署によって業務災害が認定されると、労災保険給付を受給することができます。

    業務災害の認定を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の要件をいずれも満たさなければなりません。

    • ① 業務遂行性:労働者の負傷等が、使用者の支配下にある状態で発生したことが必要です。
    • ② 業務起因性:労働者の負傷等と使用者の業務の間に因果関係が認められ、かつその因果関係が社会通念上相当であることが必要です。


    たとえば、休憩している労働者は使用者の支配下にないので、休憩時間にけがをしたとしても、原則、業務遂行性が認められません。

    また、たとえば、勤務時間中にけがをしたとしても、その原因が同僚従業員から個人的な恨みを理由に殴られたことによるものである場合等には、使用者の業務と関係がないけがであるため、原則、業務起因性が認められません。

    業務遂行性と業務起因性のいずれか一方でも否定されれば、労災保険給付を受給することはできませんそのため、両方の要件を立証できるだけの資料を確保することが大切です。

  2. (2)業務起因性に関する労災認定基準

    労災に当たり得る疾病のうち、特に脳・心臓疾患と精神疾患(うつ病など)については、業務が原因であるのか、それとも別の原因によるのかを判断するのが難しい側面があります。

    そのため厚生労働省は、脳・心臓疾患と精神疾患について労災認定基準を定め、公表しています。脳・心臓疾患や精神疾患の労災認定を受けるためには、これらの労災認定基準を踏まえた上で申請しましょう。

    参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(厚生労働省)
    参考:「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚生労働省)

2、労災保険給付の種類と請求方法

労災保険給付には、さまざまな種類があります。

会社が請求手続きを代行してくれるケースが多いですが、会社の協力を得られないこともあります。その場合は、各労災保険給付の受給要件を調べた上で、受給できる労災保険給付を漏れなく請求しましょう。

  1. (1)労災保険給付の種類

    労災保険給付の種類は、下表のとおりです。

    労災保険給付の種類 概要
    療養補償等給付 労災病院または労災保険指定医療機関において、けがや病気の治療を無償で受けることができます(=療養の給付)。
    その他の医療機関では、治療費を全額支払う必要があるものの、後に還付を受けることができます(=療養の費用の支給)。
    休業補償等給付 労災によって休業した場合、休業4日目以降の給付基礎日額(=原則として平均賃金)の80%相当額が補償されます。
    傷病補償等年金 傷病等級3級以上のけがや病気が療養開始後1年6か月を経過しても治らない場合に、年金及び一時金が支給されます。
    ※労働基準監督署長の職権により、休業補償給付から切り替えて支給されます。
    障害補償等給付 労災によって後遺症が残った場合に、障害等級に応じた年金または一時金が支給されます。
    遺族補償等給付 労災によって死亡した場合に、遺族に対して年金及び一時金が支給されます。
    葬祭料等 労災によって死亡した場合に、葬儀費用が支給されます。
    介護補償等給付 労災によって要介護状態となった場合に、介護費用相当額が支給されます。
    二次健康診断等給付 定期健康診断などで異常所見が認められた場合に、脳血管や心臓の状態を把握するための二次健康診断・特定保健指導を無償で受けられます。
  2. (2)労災保険給付の請求手続き

    労災保険給付の請求は、以下の窓口に対して行います。

    労災保険給付の種類 請求先
    療養補償等給付のうち、療養の給付 労災病院または労災保険指定医療機関
    二次健康診断等給付 労災保険二次健診等給付医療機関
    その他の労災保険給付 事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長

    該当する窓口に、労災保険給付の種類に応じた様式の請求書を提出しましょう。請求書の様式は、各窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省のウェブサイトからもダウンロードできます。

    参考:「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」(厚生労働省)

3、労災によって後遺症が残った場合の「障害補償等給付」

労災に当たるけがや病気が完治せずに後遺症が残った場合は、労働基準監督署長に対する請求により「障害補償等給付」を受給することができます。

障害補償等給付の支給額は、後遺症の部位や症状に応じた障害等級に応じて、下表のとおり決まっています。

<第1級~第7級>
障害等級 障害補償等給付(年金) 障害特別年金 障害特別支給金(一時金)
第1級 給付基礎日額の313日分 算定基礎日額の313日分 342万円
第2級 〃277日分 〃277日分 320万円
第3級 〃245日分 〃245日分 300万円
第4級 〃213日分 〃213日分 264万円
第5級 〃184日分 〃184日分 225万円
第6級 〃156日分 〃156日分 192万円
第7級 〃131日分 〃131日分 159万円

<第8級~第14級>
障害等級 障害補償等給付(一時金) 障害特別一時金 障害特別支給金(一時金)
第8級 給付基礎日額の503日分 算定基礎日額の503日分 65万円
第9級 〃391日分 〃391日分 50万円
第10級 〃302日分 〃302日分 39万円
第11級 〃223日分 〃223日分 29万円
第12級 〃156日分 〃156日分 20万円
第13級 〃101日分 〃101日分 14万円
第14級 〃56日分 〃56日分 8万円

参考:「障害等級表」(厚生労働省)

適正な障害補償等給付を受けるためには、後遺症の状態について、労災認定基準を踏まえた記載がなされた後遺障害診断書を提出することが大切です。

必要に応じて、弁護士に依頼して医師とコミュニケーションをとってもらいましょう。

4、業務災害については、会社に対する損害賠償請求も検討すべき

労災保険給付は、労災によって被災労働者に生じた損害全額を補填(ほてん)するものではありません。慰謝料は補償の対象外とされていますし、逸失利益についても一部しか補償されないケースが多いです。

労災保険給付ではカバーされない損害は、会社に対して損害賠償を請求しましょう。安全配慮義務違反や使用者責任に基づき、会社から不足額の損害賠償を受けられる可能性があります。

① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
使用者は、労働者が生命や身体などの安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をする義務を負っています。使用者が安全配慮義務を怠った結果として労災が発生した場合、被災労働者は使用者に対して損害賠償を請求できます。

② 使用者責任(民法第715条第1項)
使用者は原則として、従業員などの被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
同僚従業員の故意または過失による行為が原因で労災が発生した場合、被災労働者は使用者に対して、使用者責任に基づく損害賠償を請求できます。


会社に対して労災の損害賠償を請求する際には、弁護士に相談してサポートを受けましょう。弁護士は、法的根拠に基づいて会社の責任を追及し、被災労働者が十分な労災補償を受けられるように尽力いたします。

会社の業務が原因で労災に遭い、会社に対して損害賠償を請求したいと考えている方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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5、まとめ

会社の業務を原因とする負傷・疾病・障害・死亡について、労災保険給付を受給するためには、業務遂行性と業務起因性の要件をいずれも満たす必要があります。

特に脳疾患・心臓疾患・精神疾患については、労災認定基準を踏まえて、業務起因性が認められることを示す資料を労働基準監督署に提出しましょう。

労災保険給付は、被災労働者に生じた損害全額を補填するものではありません。不足額については、会社に対して損害賠償を請求することにより、追加で補償を受けられる可能性があります。

会社に対する労災の損害賠償請求に当たっては、弁護士のサポートを受けるのが安心です。ベリーベスト法律事務所は、労災の損害賠償請求に関する被災労働者のご相談を随時受け付けております。

業務中の事故・業務が原因で病気にかかり、会社に対して損害賠償を請求したい方は、まずはベリーベスト法律事務所 北九州オフィスへご相談ください。

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