労災のリハビリ通院のために仕事を休んでも休業補償は支払われる?

2023年10月26日
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労災のリハビリ通院のために仕事を休んでも休業補償は支払われる?

福岡労働局が発表している労災の統計資料によると、令和4年に福岡労働局管内で発生した労災の件数(新型コロナウイルス感染症を除く)は5728件であり、前年よりも157件の減少となりました。

労災によりケガをした場合には、ケガの治療のために会社を休む必要が生じる場合があります。その場合、ケガがある程度治ってくれば職場に復帰することができますが、それでも週に数回はリハビリのための通院が必要になることもあります。

そのようなリハビリ通院をする際にも、労災保険から休業補償の支払いを受け取ることができる可能性があるのです。本コラムでは、労災のリハビリ通院と休業補償との関係について、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。

1、労災のリハビリ通院で請求できるもの

まず、労災によるリハビリ通院をすることになった場合に、労災保険から支払われる補償について解説します。

  1. (1)療養給付

    療養給付とは、労災によるケガや病気の治療に関する費用を労災保険から補償してもらうことができる制度です。
    労災によりリハビリ通院をすることになった場合には、リハビリのための費用が発生しますが、労災を原因としたリハビリ通院であれば、療養補償給付・療養給付により補償されます。

    リハビリ通院をする際には、労災指定医療機関を受診することをおすすめします
    労災指定病院では、窓口での医療費の負担なく通院をすることができるためです。
    労災指定医療機関以外だと、一旦窓口で医療費の支払いを行い、後日労働基準監督署に申請して還付を受けるという流れになります。
    どちらの医療機関を受診しても、最終的には医療費の負担がないという点は同じですが、一時的にせよ10割の医療費を支払わなければならないということは、経済的な状況によっては大きな問題となるでしょう。
    そのため、できる限り労災指定医療機関を受診したほうがよいのです。

  2. (2)休業給付

    休業給付とは、労災によるケガや病気の治療のために、会社を休むことになった場合に支払われる補償です。

    補償内容としては、休業開始4日目以降から、給付基礎日額の60%相当が支払われて、その他に給付基礎日額の20%が特別支給金として支払われます。
    したがって、被災労働者は、合計で80%相当の給料の補償を受けることができます。

    ただし、休業給付を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

    ① 業務上の事由または通勤によるケガや病気の療養であること
    休業給付を受けるためには、まず、労働基準監督署により業務災害または通勤災害であるとの認定を受けて、ケガや病気の療養を行う必要があります。
    この場合の「療養」には、入院や医師の指示による自宅療養が含まれ、リハビリ通院も療養に含まれます。

    ② 労働をすることができないこと
    休業給付は、療養のために会社を休んだ際に支払われる補償であるため、ケガや病気により労働者が労働することができない状態にあることが要件になります。

    この場合の「労働をすることができない」とは、労災事故前の業務ができないという意味ではなく、一般的な労働ができないということを意味します
    したがって、例えば、運送作業に従事する労働者が労災により足をケガしたとしても、事務作業であれば対応できる場合には、「労働をすることができない」とはいえないケースもあるのです。

    また、「労働をすることができない」とは、労働時間のすべてにおいて労働不能であることのほかにも、一部の時間労働ができないことも含まれます。
    したがって、リハビリ通院のために1日会社を休むケースのほか、半休をとるケースも含まれます。

    ③ 賃金を受けていないこと
    休業給付は、被災労働者への賃金補償として支払われるお金ですので、会社から賃金を受けていないことも要件となります。

    会社から給付基礎日額の60%以上の賃金を受け取っている場合には、休業給付は対象外になってしまうのです。

2、仕事しながら通院したときも休業補償はある?

以下では、会社に出勤しながら週に数回リハビリ通院をするという場合でも、労災保険からの休業給付を受けることができるのかどうかについて解説します。

  1. (1)仕事しながら通院したときも休業給付の対象

    「仕事に復帰しながらリハビリ通院を行うと、休業給付を打ち切られてしまう」と考える方もおられるかもしれません。

    しかし、リハビリ通院は、症状の改善を目的として行われる通院であり、定期的に通院を継続しなければ症状が悪化するおそれがあります。
    したがって、職場に復帰していたとしても、通院を継続する必要性が認められれば、リハビリ通院のために休業した部分は、休業給付の対象になるのです

    たとえば、午前中にリハビリ通院をして午後に出勤した場合には、リハビリ通院のために労働時間の一部について働けないことになります。
    そのような場合にも、会社から受け取った賃金が給付基礎日額の60%未満であれば、休業給付の対象となるのです。

  2. (2)リハビリ通院で有給を使った場合はどうなるの?

    休業給付は、仕事を休んで賃金が受け取なくなったときの補償であるため、リハビリ通院で有給休暇を使った場合には、その日は休業給付を受け取ることはできません

    休業給付では特別支給金と合わせると、80%の賃金が補償されますが、有給休暇の場合には、100%の賃金が補償されます。
    そのため、少しでも多くの賃金をもらいたいという場合には、有給休暇の取得も検討してみましょう。
    ただし、有給休暇は、労災以外の事由でも使うことができますので、未消化の有給があまり残っていないという場合には無理に使う必要はありません。

3、いつまで労災保険給付の対象となる?

以下では、労災保険からの休業給付がいつまで支払われるのかについて解説します。

  1. (1)傷病が完治または治癒するまで支払われる

    労災保険からの休業給付は、傷病が完治または治癒した時点で終了となります。

    「完治」とは、傷病が完全に回復した状態のことです。
    「治癒」は、医学上一般的に認められた治療と行ってもその効果が期待できない状態のことを指します。
    一般的には「症状固定」と呼ばれている状態が、「治癒」にあたるのです

  2. (2)途中から傷病年金に切り替わることもある

    休業給付を受けている人が療養開始後1年6か月を経過しても、傷病が治癒せず、かつ当該傷病が傷病等級1級から3級に該当する場合には、休業給付から傷病年金に切り替わります。

    しかし、療養開始後1年6か月を経過したのに傷病が治癒しないときであっても、傷病等級1級から3級に該当しない場合には、引き続き休業給付が支払われることになるのです。

  3. (3)傷病が治癒しても障害が残る場合には障害給付に切り替わる

    傷病が治癒したとしても一定の障害が残ってしまった場合には、障害等級認定を受けることで、休業給付から障害給付に切り替えられます。

    認定された障害等級が1級から7級だった場合には障害年金が支払われ、障害等級が8級から14級だった場合には障害一時金が支払われます
    ちなみに、この障害(補償)給付の支給に加えて、社会復帰促進等事業として、障害等級が認定されれば障害特別支給金が支払われるほか、障害等級が1級から7級の場合には障害特別年金、障害等級が8級から14級の場合には障害特別一時金も支払われます。

4、会社にも慰謝料を請求できる場合がある

労災が原因でケガをした場合には、労災保険から補償を受け取るだけでなく、会社に対する損害賠償請求が認められる可能性もあります。

  1. (1)労災保険ではすべての損害がカバーされない

    労災保険からはさまざまな補償を受けることができますが、実際には、労災保険からの補償だけではすべての損害をカバーすることはできません

    会社を休んだ場合の休業給付も最大で80%までしか補償されないため、残りの20%が不足することになります。
    また、労災保険は被災者の被った精神的苦痛に対する補償も行わず、障害が残ってしまった場合の逸失利益についても十分には保証しないのです。

    このような労災保険ではカバーされない損害については、労災を発生させた責任がある会社に対して、賠償を請求することができます。

  2. (2)会社への損害賠償をお考えの方は弁護士に相談を

    実は、会社に対して損害賠償を請求するためには、労働者の側で、会社に労災の責任があることを立証していかなければなりません
    基本的には、会社の安全配慮義務違反による「債務不履行責任」、または「使用者責任」を問いながら、損害賠償を請求していくことになります。

    しかし、法律の知識や経験がなければ、会社の責任を適切に追及することはできません。
    弁護士であれば、会社に対する損賠償請求に必要となる証拠収集のサポートから、会社との交渉まで対応することができます。
    労働者個人で会社と交渉を進めていくことは非常に困難であるため、少しでも負担を軽減するためにも、損害賠償の請求を検討される際にはまずは弁護士に相談してください。

5、まとめ

労災によりケガをしてしまった場合には、職場に復帰できる状態になったとしても、定期的なリハビリ通院が必要になる可能性があります。
このようなリハビリ通院で会社を休んだ場合にも、労災保険からの休業給付の対象になるため、安心してください。

もっとも、労災保険からだけでは、労災による損害が十分に補償されない可能性もあります。
そのような場合には、弁護士に相談をしたうえで、会社に対する損害賠償の請求も検討しましょう。
会社への損害賠償請求を検討される方は、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください

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