コンビニコーヒー購入時に違うボタンを押したら犯罪になる?
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多くのコンビニにはレジ横にコーヒーマシンが設置されており、コーヒーカップを購入した客がセルフサービスでコーヒーを注ぐことができます(一部のコンビニでは店員が操作します)。
客としては購入したコーヒーの種類や量に応じたボタンを押す必要がありますが、このとき、違うボタンを押してしまう場合もあります。このとき、たとえばMサイズ100円のコーヒーを購入したのにLサイズ180円のボタンを押してしまったら、実際に支払ったよりも多くのコーヒーを飲めてしまうことになります。
このとき、客の行為は犯罪に問われる可能性があります。具体的には、違うボタンを押したのが意図的であったかどうか、どの時点で違うボタンを押すつもりだったのかなどによって、成立する可能性のある犯罪が異なってくるのです。
本コラムでは、コンビニコーヒー購入時に違うボタンを押した場合に問われる罪について、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、コンビニコーヒーで違うボタンを押したとき問われる罪
まず、コンビニコーヒーで違うボタンを押してしまった場合に成立する可能性のある罪について説明します。
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(1)注文時に違うボタンを押すつもりだった場合|詐欺罪
コンビニコーヒーは、レジで希望するサイズや種類(ホットコーヒー・アイスコーヒーなど)のコーヒーを注文・支払いを行い、コーヒーカップを受け取って、コーヒーマシンでボタンを押してコーヒーを注ぐという流れが一般的です。
この注文からコーヒーを注ぐまでの流れの中で、コンビニでコーヒーを注文する時点ですでに違うボタンを押す意思があった場合には、意図してコンビニ店員を欺いて異なるサイズのコーヒーを注いだことになりますので、詐欺罪が成立します(刑法246条1項)。
たとえば、Mサイズのボタンを押すつもりで、Sサイズのコーヒーを注文し、SサイズのコーヒーカップにMサイズのコーヒーを注いだような場合には、詐欺罪が成立することになるのです。
なお、詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。 -
(2)ボタンを押す時点で違うボタンを押す決意をした場合|窃盗罪
注文からコーヒーを注ぐまでの流れの中で、「コンビニで注文する時点では、違うボタンを押す意思がなかったものの、コーヒーマシンの前に立って、ボタンを押す時点で違うボタンを押す意思が芽生えた」というケースでは、店員に対する詐欺行為はありませんので、詐欺罪は成立しません。
しかし、違うボタンを押して本来のサイズよりも大きいサイズのコーヒーを注ぐことは、店側の意思に反して、コーヒーという財産を奪うことになるため、窃盗罪が成立することになります(刑法235条)。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。 -
(3)誤って違うボタンを押したことに店内で気付いたものの持ち帰った場合|窃盗罪
意図せず、誤って違うボタンを押してしまう場合もあるでしょう。
窃盗罪は故意による犯罪行為のみを処罰する犯罪であるため、過失による窃盗は処罰の対象外となります。したがって、誤って違うボタンを押したこと自体が罪に問われることはありません。
しかし、店内で違うボタンを押したことに気付いたにもかかわらず、そのままコーヒーを持ち帰った場合には、「店側が提供していないサイズのコーヒーを持ち去る」という故意が存在することにあります。
店内にいる間は、コーヒーの占有は店側にありますので、この場合にも、窃盗罪が成立することになるのです。 -
(4)店外で違うボタンを押したことに気付いたものの持ち去った場合|遺失物横領罪
誤って違うボタンを押してしまい、店に出てからそのことに気付いた場合には、コーヒーの占有はすでに店側から客に移っているため、その後に違うボタンを押したことに気付いたとしても窃盗罪は成立しません。
しかし、正当な対価を支払ってコーヒーを購入したわけではないため、コーヒーの所有権はまだ店側にあります。そのため、このようなケースでは、遺失物横領罪が成立します(刑法254条)。
遺失物横領罪の法定期は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料」にです。
2、気付かれて逃走したとき店員にケガを負わせたらどうなる?
コンビニコーヒーで違うボタンを押したことに店員が気付いたため、その場から逃走する際に店員を突き飛ばすなどしてケガを負わせた場合には、窃盗罪よりもさらに重大な犯罪に問われる可能性があります。
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(1)事後強盗罪
事後強盗罪とは、窃盗を行った犯人が、以下のような目的で暴行または脅迫を行った場合に成立する犯罪です(刑法238条)。
- 財物を取り返すことを防ぐ目的
- 逮捕を免れる目的
- 犯罪の証拠を隠滅する目的
コンビニコーヒーで違うボタンを押したことが店員に気付かれてしまったあとで、店員に捕まることを避けるために、店員を殴ったり、突き飛ばしたりするなどの暴行やナイフを示すなどの脅迫を加えた場合には、事後強盗罪が成立する可能性があります。
事後強盗罪の法定刑は「5年以上の懲役」です。 -
(2)事後強盗致傷罪
事後強盗による暴行によって、被害者がケガをしてしまった場合には、事後強盗致傷罪が成立します(刑法240条、238条)。
コンビニ店員に限らず、逃走する犯人を捕まえようとした通行人にケガをさせた場合にも、事後強盗致傷罪は成立します。
ただし、たまたま近くを歩いていただけの人を突き飛ばしたという場合には事後強盗の目的とは無関係なため、事後強盗致傷罪は成立しません。
事後強盗致傷罪の法定刑は「無期または6年以上の懲役」です。 -
(3)窃盗+暴行(傷害)罪
事後強盗罪は、強盗と同様に扱われるため、被害者に加えられる暴行または脅迫は、被害者の反抗を抑圧する程度のものである必要があります(刑法238条)。
暴行または脅迫の程度が、被害者の反抗を抑圧する程度に至らない場合には、事後強盗罪は成立せず、窃盗+暴行(傷害)罪が成立するにとどまります。
3、刑事事件として取り調べを受けるときの流れ
刑事事件として取り調べを受けることになった場合には、以下のような流れで手続きが進みます。
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(1)在宅事件の場合
罪を犯したとしても、必ず逮捕されるというわけではありません。逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれなどがない場合には、逮捕されずに捜査が進むこともあります。
このように逮捕されずに捜査が行われる事件のことを、「在宅事件」といいます。
在宅事件の場合には、以下のような流れで手続きが進んでいきます。- ① 警察での取り調べ
在宅事件の場合には、警察での取り調べが必要になると、警察から出頭を求める連絡がきます。警察から連絡がきた場合には、日程調整を行い、警察署での取り調べのために出頭をします。出頭を求められたとしても逮捕されたわけではありませんので、あくまでも任意の対応になりますが、正当な理由なく出頭を拒否していると、逃亡・証拠隠滅のおそれがあると判断されて逮捕されるリスクが高くなります。 - ② 検察への送致(書類送検)
警察での取り調べが終わると、事件に関する書類関係はすべて検察に送られます。
これを一般的に「書類送検」と呼びます。 - ③ 検察での取り調べ
検察への書類送検後は、検察官からも取り調べのために出頭を求められることがあります。警察での取り調べと同様にきちんと対応するようにしましょう。
なお、犯行を認めている場合には、検察での取り調べは1回だけで終わることが多いです。 - ④ 処分の決定
検察では、これまでの捜査状況をふまえて、被疑者を起訴するか、不起訴にするかを判断します。
在宅事件では、後述する身柄事件のように処分決定までの期間制限がありませんので、通常は処分が決定するまでにある程度の時間がとられます。
- ① 警察での取り調べ
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(2)身柄事件の場合
被疑者が逃亡または罪証隠滅のおそれがあるという場合には、捜査機関によって逮捕されることがあります。逮捕された場合には、被疑者の身柄は、警察署の留置施設で拘束されますので、このような事件のことを「身柄事件」と呼びます。
身柄事件では、以下のような流れで手続きが進みます。- ① 警察での取り調べ
被疑者は、逮捕されると警察での取り調べを受けることになります。身柄事件では、身体拘束に時間制限が設けられており、警察での身柄拘束は48時間が上限とされています。
警察は、必要な取り調べを終えて、48時間以内に被疑者を釈放するか、検察に身柄を送致しなければなりません。 - ② 検察への送致(身柄送検)
被疑者を釈放しない場合には、被疑者の身柄と事件関係書類一式を検察に送致します。これを一般的に「身柄送検」といいます。 - ③ 検察での取り調べ
身柄送検を受けた検察では、24時間以内に必要な取り調べを終えて、被疑者の身柄を解放するか引き続き拘束するかの判断をしなければなりません。 - ④ 勾留
被疑者の身柄を引き続き拘束する場合には、検察官は、裁判所に勾留請求を行います。裁判所で勾留が認められると、その時点から最大10日間身柄拘束が続くことになります。
勾留には延長の可能性があるため、裁判所で勾留延長が認められると、さらに最大10日間身柄拘束が続きます。
そのため、勾留では、最大で20日間身柄拘束を受ける可能性があります。 - ⑤ 処分の決定
勾留期間が満期になる前に検察官は、被疑者の処分を決定します。起訴されれば刑事裁判が行われますが、不起訴となればその時点で釈放となります。
- ① 警察での取り調べ
4、早いタイミングで弁護士に相談したほうがよい理由
以下のような理由から、犯罪の嫌疑をかけられた場合には早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)被害者との示談交渉ができる
コンビニコーヒーで違うボタンを押してしまった場合には、状況に応じて詐欺罪や窃盗罪などが成立します。
いずれも、被害者はコンビニ側ですので、被害を受けたコンビニ側との間で示談交渉を行う必要があります。
しかし、被疑者が逮捕・勾留されていた場合には、自分で示談交渉を行うことができません。また、在宅事件であったとしても被疑者本人からの接触は拒絶される可能性もあります。
このような場合には、弁護士に示談交渉を任せることをおすすめします。
弁護士であれば被疑者に代わって示談交渉を行うことができるため、被疑者が身柄拘束中でも示談交渉を進めることができます。
また、被疑者本人から接触を拒んでいる場合でも、弁護士が窓口になれば示談に応じてくれる可能性があります。 -
(2)具体的な状況に応じた犯罪の成立を主張できる
コンビニコーヒーで違うボタンを押したことによって成立する犯罪は、違うボタンを押すことが意図的であったかどうか、店員に暴行をして危害を加えたかどうかなど、具体的な状況によって異なってきます。
どの犯罪が成立するかによって、法定刑の重さは大きく異なってきます。
場合によって、実際の行動に見合わない、不相当に重い刑を科されるおそれもあるのです。
弁護士に依頼すれば、捜査段階や刑事裁判を通じて、不当な刑罰が科されることを回避するための弁護活動を行うことができます。
5、まとめ
コンビニコーヒーを購入したあとに、違うボタンを押してしまうと、詐欺罪や窃盗罪に問われる可能性があります。
故意に違うボタンを押さないのはもちろんのこと、誤って違うボタンを押してしまった場合にも、気付いた段階ですぐに店員に申告するようにしましょう。
もし、コンビニコーヒーで違うボタンを押したご家族が逮捕されたり、違うボタンを押されたことに気付いたコンビニ側に「警察に通報してやる」といわれたりしてしまった場合には、速やかに対応することが重要です。
ベリーベスト法律事務所に連絡いただければ、不当な刑罰が科されることを回避するために、弁護士が力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています