隠し子の相続権|相続割合や隠し子が分かった場合の対処法を解説
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2023年の北九州市の出生者数は5595名で、死亡者数は1万3235名でした。被相続人が亡くなって相続が始まると、思わぬことが発覚してトラブルになることがあります。
たとえば、隠し子がいることが分かり、遺産分割時に実子や配偶者ともめるなどのケースです。こうしたトラブルが起きた場合は、早急に弁護士のサポートを受けるのが得策です。
本記事では、隠し子の相続権・法定相続分や、亡くなった親に隠し子がいることが判明した場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
出典:「北九州市の推計人口 令和6年 異動状況」(北九州市)
1、隠し子の相続権はどうなる?
「隠し子」とは、何らかの事情で世間に対してその存在を隠している子どもを意味します。
特に、父親が妻(または元妻)およびその子どもに対して隠している、別の女性との間に設けた子を「隠し子」というケースが多いです(本記事でも、「隠し子」はその意味を有するものとします)。
隠し子であっても、父親から認知されれば、父親の相続に関して法定相続人となります。
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(1)隠し子は、認知されている場合に限り相続権を有する
隠し子が父親の遺産を相続するためには、父親の認知を受ける必要があります。
「認知」とは、非嫡出子(=婚姻関係から生まれた子ではない子)との血縁上の親子関係の存在を認めることをいいます。
非嫡出子は、何も手続きが行われなければ、法律上は父親の子として扱われません。認知が行われることによってはじめて、父親と非嫡出子の間に法律上の親子関係が発生します。
亡くなった被相続人の子は相続権を有しますが(民法第887条第1項)、隠し子が法律上の子(=相続人)としての地位を取得するためには、被相続人の認知が必要になります。 -
(2)認知の手続き
認知は、以下のいずれかの手続きによって行います。
- ① 認知届の提出(民法第781条第1項)
以下のいずれかの市区町村役場に認知届を提出します。胎児を認知すること(=胎児認知)もできますが、母親の承諾が必要です(民法第783条第1項)。
・認知する父親の本籍地
・認知される子の本籍地
・届出人の所在地
・(胎児認知の場合)母親の本籍地 - ② 遺言(民法第781条第2項)
遺言書に子を認知する旨を記載します。遺言による認知が行われた場合は、その就任の日から10日以内に、遺言執行者が市区町村役場に認知届を提出します。 - ③ 認知調停(家事事件手続法244条)
父親の認知を受けたい子もしくはその直系卑属、またはこれらの者の法定代理人が、家庭裁判所の調停手続きを通じて、父親に対して認知を求めます。
申立人と父親の間で認知の合意が成立したら、家庭裁判所は合意内容に従った審判を行い(家事事件手続法277条1項)、認知の効力が発生します。この場合は、審判の確定日から10日以内に、市区町村役場へ認知届などを提出します。
なお、認知の訴えは調停前置とされているため、認知の訴えを提起する前に認知調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法第257条1項)。 - ④ 認知の訴え(民法第787条本文)
認知調停が不成立となった場合に、父親の認知を受けたい子もしくはその直系卑属、またはこれらの者の法定代理人が、裁判所に訴訟を提起して認知を求めます。
和解または判決によって認知が確定した場合は、認知が成立します。この場合、和解日または判決確定日から10日以内に、市区町村役場へ認知届などを提出します。
なお、認知の訴えは父親の死後3年が経過するまで提起することが可能です(民法787条ただし書き)。
隠し子を認知しないまま父親が亡くなったとしても、死後に隠し子が認知の訴えを提起し、他の子との間の相続争いに発展するケースがあります。 - ① 認知届の提出(民法第781条第1項)
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(3)隠し子の母親に相続権はない
亡くなった父親と婚姻していない隠し子の母親には、父親の遺産に関する相続権はありません。相続権を取得するには、父親の死亡時点において父親と婚姻している必要があるためです。
2、隠し子の法定相続分(相続割合)
被相続人の認知を受けている隠し子の法定相続分は、他の子と同じです。
相続人の構成に応じて、各相続人の法定相続分は下表の割合となります。
相続人の構成 | 配偶者の相続分 | 子(隠し子を含む)の相続分 |
---|---|---|
配偶者、子2人(隠し子1人含む) | 2分の1 | 各4分の1 |
配偶者、子3人(隠し子1人含む) | 2分の1 | 各6分の1 |
配偶者、子4人(隠し子1人含む) | 2分の1 | 各8分の1 |
子2人(隠し子1人含む) | - | 各2分の1 |
子3人(隠し子1人含む) | - | 各3分の1 |
子4人(隠し子1人含む) | - | 各4分の1 |
3、亡くなった父親の隠し子が発覚した場合の対処法
亡くなった父親に隠し子がいたことが発覚した場合は、遺産分割に関して以下の対応を行いましょう。
(2)認知された隠し子に連絡をとり、遺産分割協議への参加を依頼する
(3)弁護士に遺産分割協議を仲介してもらう
(4)協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判を利用する
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(1)認知の有無を確認する
まずは、隠し子が亡くなった父親に認知されているかどうかを確認しましょう。
父親の出生から死亡まで連続した戸籍謄本を参照し、隠し子の情報が記載されていれば、その隠し子は認知されています。認知されている隠し子は、遺産分割に参加させなければなりません。
これに対して、認知されていない隠し子は、父親の遺産分割協議へ参加する権利がありません。この場合、隠し子を参加させずに遺産分割協議を始めて構いません。
ただし、遺産分割が完了するまでに、認知の訴えによって死後認知が成立した場合には、認知された隠し子を遺産分割協議に参加させる必要があります。
なお、遺産分割の完了後に死後認知が成立した場合には、遺産分割をやり直す必要はありません。ただし、認知された隠し子は他の相続人に対して、自らの相続分に相当する価額の支払いを請求する権利を有します(民法第910条)。 -
(2)認知された隠し子に連絡をとり、遺産分割協議への参加を依頼する
亡くなった父親に認知された隠し子がいる場合は、その隠し子に連絡をとり、遺産分割協議に参加するよう依頼しましょう。
隠し子の連絡先が分からないときは、戸籍の附票を確認すれば、現在の住所が分かるケースが多いです。
相続権のある隠し子を参加させずに遺産分割を行っても、その遺産分割は無効です。後で遺産分割をやり直す事態を防ぐため、必ず隠し子も遺産分割に参加させましょう。 -
(3)弁護士に遺産分割協議を仲介してもらう
隠し子を含めた遺産分割協議は、隠し子と他の相続人の主張が対立して、激しく紛糾するケースが非常に多いです。スムーズに遺産分割協議をまとめるためには、弁護士に依頼して話し合いを仲介してもらうことをおすすめします。
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(4)協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判を利用する
遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
遺産分割調停では、中立の調停委員が各相続人の主張を公平に聴き取り、それぞれ歩み寄りを促すなどして、遺産分割に関する合意形成をサポートします。
すべての相続人が遺産分割案に同意した場合には調停成立となり、調停調書の内容に従って遺産分割を行います。
遺産分割調停が不成立となった場合には、家庭裁判所が審判によって遺産分割の内容を決定します。審判では、原則として各相続人の法定相続分に従いつつ、諸般の事情を考慮して遺産分割の内容が定められます。
参考:「遺産分割調停」(裁判所)
4、【被相続人向け】隠し子がいる場合にできる生前の相続対策
家族には伝えていない隠し子がいる場合には、ご自身が亡くなった後の相続トラブルを防ぐため、生前の段階で相続対策を行うことをおすすめします。以下の相続対策をご検討ください。
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(1)生前贈与
特定の財産を家族や隠し子に与えたい場合は、その財産を生前の段階で贈与することが考えられます。生前贈与された財産は遺産分割の対象から除外されるため、相続人間での取り合いを防げます。
ただし、生前贈与の金額は特別受益として相続分に反映されるのが原則とされているほか(民法第903条)、遺留分侵害額請求(民法第1046条第1項)や相続税の課税対象となる場合があります。
これらの問題について対策するためには、弁護士のアドバイスを受けましょう。 -
(2)遺言書の作成
遺言書を作成してあらかじめ遺産の相続方法を決めておくことも、相続トラブルを防ぐための効果的な対策となります。ご自身の所有する財産を漏れなくリストアップし、それぞれの財産を誰に相続するかを遺言書に明記しましょう。
ただし、遺言書は民法で定められた方式に従って作成しなければ無効となります(民法第960条)。また、偏った内容の遺言書を作成すると、かえって相続発生後に遺留分トラブルを誘発してしまいかねません。
遺言書に起因するトラブルを避けるためには、弁護士に相談することをおすすめします。
お問い合わせください。
5、まとめ
被相続人に隠し子がいるケースでは、生前の相続対策および遺産分割のいずれにおいても、通常のケースに比べて複雑な検討および対応が求められます。弁護士のアドバイスを受けながら、相続トラブルの発生・深刻化の防止に努めましょう。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。隠し子が絡む相続手続きの進め方についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています