相続の問題は訴訟で解決できる? 調停・審判の流れやポイントを解説
- 遺産を受け取る方
- 相続
- 訴訟
令和3年の北九州市の出生者数は5901名、死亡者数は1万2864名でした。
相続問題は話し合いによって解決することが望ましいですが、相続人の間で意見が食い違ってまとまらないこともあります。そして、相続人の間で協議が決裂した場合には、法的手続きを通じて解決を図る必要があります。遺産分割については、訴訟ではなく調停・審判で争うことになります。ただし、他の相続問題のなかには、訴訟で争うことができるものもあります。
いずれにしても、法的手続きに自力で対応するのは大変なため、弁護士のサポートを受けましょう。本コラムでは、相続問題を解決するための調停・審判・訴訟などの法的手続きについて、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、相続問題は訴訟で解決できるのか?
相続については、さまざまな種類のトラブルが発生することがあります。
相続トラブルは、基本的には話し合いで解決することが望ましいといえます。
しかし、話し合いがまとまらない場合には、トラブルの種類に応じた法的手続きを利用する必要があるのです。
相続問題のなかで、もっとも主要なもののひとつが「遺産分割」のトラブルです。
相続人間で遺産の分け方について揉めてしまうと、遺産分割トラブルに発展します。
遺産分割トラブルについては、訴訟の提起は認められておらず、代わりに家事調停や家事審判の手続きを利用できます。
家事調停は調停委員会の仲介による話し合いの手続きであり、家事審判は家庭裁判所が資料を基に決定を行う手続きです。
訴訟とは異なり、家事調停や家事審判は非公開で行われます。
また、遺産分割トラブル以外の相続問題に関しては、訴訟の提起が認められている場合もあります。どういった場合に訴訟の提起が認められるのかについては後述しますものの、まずは遺産分割調停・審判についてご説明いたします。
2、遺産分割調停・審判の手続き
遺産分割トラブルについて、法的手続きによる解決をめざすためには、遺産分割調停や審判を利用することになります。
以下では、遺産分割調停や審判の手続きの流れを解説します。
-
(1)遺産分割調停の申立て
遺産分割調停は、以下のいずれかの家庭裁判所に申し立てます。
- ① 相手方(他の相続人)のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所
- ② 当事者(相続人全員)が合意で定める家庭裁判所
遺産分割調停の申立てに必要となる主な書類は、以下のとおりです。
- 申立書(原本:1通、写し:他の相続人の人数分)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍附票
- 遺産に関する証明書(不動産:登記事項証明書および固定資産評価証明書、預貯金:通帳の写しまたは残高証明書など)
-
(2)調停委員による仲介
遺産分割調停の申立てが受理されると、家庭裁判所は調停期日を指定します。
調停期日は家庭裁判所において行われます。
民間の有識者から選任される調停委員が、当事者である各相続人の主張を公平に聴き取ったうえで、遺産分割の合意に向けて仲介します。
また、調停委員は状況に応じて各相続人に対して歩み寄りを提案するなどして、相続人間の主張の乖離(かいり)を埋めようとします。
調停委員に対してご自身の主張の合理性を根拠に基づき示すことが、遺産分割調停において有利な解決を得るためのポイントとなります。 -
(3)調停成立or審判へ移行
相続人全員の間で遺産分割の合意が得られれば、遺産分割調停は成立です。
調停が成立した場合には、家庭裁判所書記官によって調停調書が作成されます。
調停調書は確定判決と同一の効力を有するため(家事事件手続法第268条第1項)、強制執行の申立てに用いることができます。
これに対して、相続人間で遺産分割の合意が得られない場合、遺産分割調停は不成立となります。
この場合、自動的に遺産分割審判の手続きへと移行します(同法272条1項、4項)。 -
(4)家庭裁判所による審判・確定
遺産分割審判に移行した場合、家庭裁判所は調停手続きにおいて提出された主張・証拠と、新たに提出された主張・証拠を総合的に考慮したうえで、遺産分割の方法について結論を示します。
また、遺産分割審判の手続きにおいては、当事者である相続人の陳述の聴取が行われます(家事事件手続法第68条第1項)。
当事者の陳述の聴取は、当事者の申立てがある場合は審問期日において実施され、他の当事者は原則として審問期日への立ち会いが可能です(同法第69条)。
家庭裁判所が審判によって示す遺産分割の方法は、法定相続分を目安としつつ、当事者の主張・証拠を基とした具体的な事情に応じて適宜調整が行われます。
審判に対しては告知日から2週間以内に限り即時抗告が認められていますが、その期間が経過すると審判が確定します(同法第198条第1項第1号、第86条第1項、第2項)。
確定した審判は、調停調書と同様、執行力のある債務名義と同一の効力を有するため(同法第75条)、強制執行の申立てに用いることができます。
3、相続について訴訟が行われる場合
遺産分割そのものを争う手続きは調停・審判であり、訴訟で遺産分割を争うことはできません。
これに対して、遺産分割以外の相続問題については、訴訟で争うことができるものもあります。
以下では、相続について提起されることがある訴訟の例を解説します。
-
(1)遺留分侵害額請求訴訟
兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保障額である「遺留分」が認められています(民法第1042条第1項)。
遺留分未満の遺産しか相続できなかった場合は、生前贈与や遺贈を受けた者に対して金銭の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求を争う主な法的手続きは、調停および訴訟です。
原則として調停を先行させる必要がありますが(家事事件手続法第257条第1項)、調停不成立の場合に審判へ移行することはなく、別途訴訟を提起することになります。 -
(2)遺言無効確認訴訟
遺言書については、形式不備・遺言能力の欠如・偽造などの理由から、無効を主張される場合があります。
遺言書の無効を争う主な法的手続きは、遺言無効確認訴訟です。
たとえば遺言無効を確認した後、遺産分割についても法的手続きを通じて争われることがあります。
このような場合には、まず遺言無効確認訴訟を提起して、遺言無効の判決が確定した後、改めて遺産分割調停を申し立てる流れになるのです。 -
(3)使い込まれた遺産の不当利得返還請求訴訟
遺産を管理する相続人が、他の相続人に無断で遺産を使い込んでしまう問題は、相続トラブルの典型例といえます。
遺産を使い込んだ相続人に対して、その遺産を戻すように求める場合は「不当利得返還請求」を行います(民法第703条、第704条)。
そして、不当利得返還請求を争う主な法的手続きは、訴訟です。
遺産分割調停を通じて解決を図ることも可能ではありますが、遺産の使い込み問題をまず解決しようとする場合は、独立して不当利得返還請求訴訟を提起することが一般的です。
4、相続問題を解決するためのポイント
以下では、相続問題を解決するために注意すべきポイントを解説します。
-
(1)他の相続人の主張をよく聞き、譲歩を検討する
他の相続人に対して自分の希望を受け入れることばかりを主張し続けているだけでは、相続問題の解決は遠のいてしまいます。
相続問題の解決には、それぞれの相続人が互いに歩み寄ることが必要不可欠です。
他の相続人の主張をよく聞き、譲ってもよい部分については柔軟に譲歩を検討しましょう。
ご自身から積極的に譲歩の姿勢を示すことで、他の相続人も主張に耳を傾けてくれやすくなり、円満な合意が成立する可能性が高まります。 -
(2)弁護士のサポートを受ける
遺産分割協議がまとまらない場合は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士が客観的な立場から話し合いを仲介することで、遺産分割の方法を円満に合意できる可能性を高められます。
遺産分割調停や審判で争う必要が生じた場合にも、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士には、煩雑な調停や審判の手続きへの対応を一任することができます。
また、調停委員や家庭裁判所に対しても、弁護士が法律の専門知識に基づいて主張を説得的に伝えます。
5、まとめ
相続問題がこじれてしまった場合は、法的手続きを通じて解決をめざすことになります。
遺産分割の方法については、訴訟ではなく調停・審判で争うことになりますが、それ以外の相続問題については訴訟が必要となる場合もあります。
いずれの法的手続きを利用についても、対応は弁護士に依頼するのが安心です。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。
相続財産・相続人の調査、遺産分割や遺留分侵害に関する問題解決など、幅広い事柄について対応いたします。
相続問題にお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています