休眠預金は相続できる? 古い通帳が見つかったときの対応方法
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2019年、休眠預金等活用法の運用がスタートしました。この制度は、長期間入出金などの異動がない口座の預貯金者を保護するとともに、資金を民間公益活動に活用するためのものです。
相続の手続きで、亡くなった方の古い預貯金通帳が出てきた場合、払い戻しを受けられるのか疑問に思われるかもしれませんが、必要な手続きを行えば払い戻しを受けられるケースがほとんどです。
本コラムでは、亡くなった方の古い通帳が出てきた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、休眠預金とは?|相続人も引き出せる?
「休眠預金」とは、入出金などの取引がされず10年以上経過した預貯金を指します。この休眠預金を対象とした新しい制度が2019年から始まりました。制度の概要と、休眠預金の払い戻しについて解説します。
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(1)新しい休眠預金制度の概要
休眠預金制度とは、休眠預金を預金保険機構に移管して民間の公益活動に活用することを骨子とした制度です。
民間で活用するといっても、預金保険機構では、預金者の払い戻し請求に備えて一定の資金を確保しているので、預金者の請求があれば、利子も含めて払い戻しに応じることになっています。
この制度の対象となるには、最後の入出金が2009年1月1日以降であって、かつ、令和元年(2019年)1月1日以降に最後の入出金から10年が経過した預貯金です。
休眠預金制度の対象は次のとおりです。・対象となる金融機関
銀行(外国銀行は除く)、信用金庫、信用協同組合、労働金庫、商工組合中央金庫、農業協同組合、漁業協同組合、水産加工業協同組合、農林中央金庫など
・対象となる口座の種類
普通・通常預貯金、定期預貯金、当座預貯金、別段預貯金、貯蓄預貯金、定期積金、相互掛金、金銭信託(元本補填のもの)、金融債(保護預りのもの)
・対象とならない口座の種類
外貨預貯金、譲渡性預貯金、金融債(保護預りなし)、財形貯蓄、仕組預貯金、マル優口座、平成19年(2007年)10月1日より前の定額郵便貯金など
なお、休眠預金となる前に、金融機関から送付される通知を受領した場合は、休眠預金にはなりません。
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(2)休眠預金制度対象外の古い預貯金は払い戻しできる?
休眠預金制度の運用が始まった2019年1月1日の時点で、最後の入出金などの異動からすでに10年が経過している預貯金は、制度の対象にはなりません。
民法や商法の一般原則では、5年または10年が経過した預貯金は時効により権利が消滅することになっていますが、銀行などでは時効を援用せずに払い戻しに応じる取り扱いが一般的です。
ただし、郵政民営化(平成19年10月1日)よりも前に預けられた定額郵便貯金、定期郵便貯金、積立郵便貯金は注意が必要です。
旧郵便法の規定では、上記の郵便貯金は、満期から20年2か月が経過すると権利が消滅することになっており、ゆうちょ銀行ホームページでもそのように案内されています。しかし、旧郵便貯金法の規定を知らない人からの苦情が相次いだことから、総務省では柔軟な対応を行うよう、運用の見直しを行っています。
現状では、病気や災害などのやむを得ない事情がある場合には、権利が消滅しない扱いを認めていますが、この例外的な取り扱いを拡大する方向で検討されているようです。 -
(3)休眠預金も相続の対象になる?
相続の対象となるのは、被相続人(亡くなった方)の財産に属する一切の権利義務であり、休眠預金も相続財産として相続の対象となります。
預貯金の預金者が亡くなると、相続人が手続きを行うまで口座は凍結されてしまいます。相続人が複数人いる場合は、相続人全員が合意するか、遺産分割協議が成立するまで、原則として預貯金を引き出すことはできません。
休眠預金も一般の預貯金と考え方は同じなので、共同相続人全員または遺産分割協議により休眠預金を取得することになった相続人が払い戻しの手続きを行うことになります。 -
(4)未利用口座管理手数料には注意
休眠預金制度は、預金者の保護にも配慮された制度ですが、銀行業界全体の流れとして、一定期間取引がない口座から、未利用口座管理手数料を徴収する銀行が増えています。
手数料が発生する条件は、金融機関により異なりますが、残高が手数料に満たない場合は、自動的に口座が解約されることもあるので、注意が必要です。
2、休眠預金の引き出し方法|通帳の銀行が存在しない場合は?
休眠預金を引き出す手続きは、口座を開設した金融機関の支店で、通帳やキャッシュカード、本人確認書類を持参して行います。
通常の預貯金の引き出しと異なるのは、銀行の営業時間内に窓口で手続きをする必要があること、口座の調査のために時間がかかる場合があるということです。
なお、通帳などを紛失した場合でも、口座名義人の本人確認資料があれば、払い戻しの手続きは可能です。相続人が休眠預金を引き出す場合は、通帳やキャッシュカードに加えて、相続関係を証明する戸籍の証明書、遺産分割協議書、遺言書なども必要になります。
金融機関によっては、相続人全員が赴く必要がある場合もあるので、事前に金融機関に問い合わせをすることをおすすめします。
なお、平成に入って銀行の統廃合が進められたことから、通帳の銀行名と現在の名称が異なるケースも少なくありません。参考までに、北九州市域で営業している主な銀行で、平成元年以降に名称が変わったものをご紹介します。
① 合併などにより名称が変わった銀行の旧名称と現在の名称
旧名称(平成元年以降) | 現在の名称 |
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第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行 | みずほ銀行 |
三菱銀行、東京銀行、三和銀行、東海銀行、東京三菱銀行、UFJ銀行、三菱東京UFJ銀行 | 三菱UFJ銀行 |
三井銀行、太陽神戸銀行、住友銀行、太平洋銀行、わかしお銀行、太陽神戸三井銀行、さくら銀行 | 三井住友銀行 |
協和銀行、埼玉銀行、大和銀行、奈良銀行、あさひ銀行、埼玉協和銀行 | りそな銀行 |
山口銀行(一部の支店) | 北九州銀行 |
西日本銀行、福岡シティ銀行 | 西日本シティ銀行 |
② 現在は存在しない支店
銀行の合併や支店の統廃合により、通帳に記載された支店が存在しない場合は、銀行のコールセンターなどで、手続きをする窓口を確認しましょう。
3、休眠預金が遺産分割協議の後に見つかったら?
複数の相続人がいる場合、休眠預金も他の遺産とともに遺産分割協議を行いますが、遺産分割協議後に被相続人名義の古い通帳が見つかった場合の対処法を解説します。
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(1)再度の遺産分割協議が必要
休眠預金に限らず、遺産分割協議の後に新たな財産が発見された場合は、新たな財産についての遺産分割協議を行う必要があります。
相続人全員の合意があれば、すべての遺産について遺産分割をやり直すことも可能です。なお、最初の遺産分割協議において、新たに発見された財産の分割方法についての取り決めがある場合は、その取り決めに従うことになります。 -
(2)相続税が課税される場合は相続税の申告が必要
相続税の申告後に休眠預金などの新たな遺産が発見された場合は、相続税額が増加することになるので、修正申告を行う必要があります。また、新たな遺産を相続することにより、相続税が課税されることになる場合も、相続税の申告を行います。
なお、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行う必要があります。
申告、納税の期限を過ぎて修正申告などをした場合、税務署の指摘後に修正すると加算税などが課されますが、自発的に申告すれば、加算税などが課されないこともあります。 -
(3)相続放棄を撤回することはできる?
相続放棄をした相続人がいるケースで、後になって休眠預金が発見されると、トラブルになることがあります。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになるので、後から出てきた休眠預金も相続できません。相続放棄は、遺産の権利関係を変動させるだけでなく、被相続人の債権者や遺産を買い受けた第三者の権利にも影響を与える可能性があるため、相続放棄の申述が受理された後で撤回することは認められていません。
ただし、詐欺や強迫、錯誤(思い違い)など、民法で規定する理由がある場合は、相続放棄の取り消しが認められることもあります。
たとえば、休眠預金の存在を知っていた相続人が、それを隠して「多額の借金があるから相続放棄したほうがいい」などと他の相続人をだまし、相続放棄をさせた場合、詐欺により相続放棄を取り消すことができる可能性があります。
一方で、めぼしい遺産がないと考えて相続放棄をしたところ、後に休眠預金が出てきたようなケースで、錯誤により相続放棄を取り消すことができるかは微妙な問題です。錯誤により相続放棄が無効と判断された裁判例も存在するので、ケース・バイ・ケースで認められる可能性もありますが、ハードルは高いと考えられます。
詐欺や強迫、錯誤による相続放棄の取り消しは、詐欺などの事実を知ったときから6か月、または相続放棄をしてから10年が経過すると、行使できなくなります。
4、相続でトラブルが起こりそうなときは弁護士に相談を
相続手続についてアドバイスやサポートをご希望の場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談する具体的なメリットをご紹介します。
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(1)各種の期限を意識して相続手続をサポートしてもらえる
相続手続の中には、相続放棄や被相続人の所得税申告(準確定申告)、相続税の申告など期限が設けられている手続きがあります。
一方で、相続人になると、相続人や相続財産の調査、遺産分割協議、遺産の名義変更手続などやらなければならない手続きや作業が数多くあります。弁護士は相続手続の効率的な進め方や、各種の期限に合わせたスケジュール管理についてアドバイスすることが可能です。 -
(2)トラブルを避けて公平な遺産分割をすることができる
相続で最もトラブルが起きやすいのは、誰が何を相続するのかを話し合う遺産分割協議です。
親族同士なので、できればトラブルは避けたいと思われるのは当然ですが、公平な遺産分割をしたいとお考えの場合は、相続人同士で利害が相反することもあります。
親族同士の話し合いでは、感情的な対立に発展しがちなケースでも、弁護士が提案する法律に従った解決案であれば、理性的な話し合いが進められることも期待できます。 -
(3)交渉や裁判手続を委任することができる
話し合いが平行線でまとまらない場合や、自身の利益のみを主張する相続人がいるケースでは、顔を合わせるのも面倒になりがちです。
遺産分割協議などで相続人の足並みがそろわない場合は、裁判手続で解決を図るケースもありますが、弁護士は交渉から裁判手続まですべてについて代理人となることが可能です。
5、まとめ
2019年1月以降、最後の入出金から10年が経過した預貯金口座は休眠預金として扱われますが、一部の種類の預貯金を除いて払い戻しを受けることができます。2019年よりも前に休眠状態になった預貯金も、銀行など金融機関の判断で払い戻しに応じてもらえるケースがほとんどです。
亡くなった方名義の古い預貯金口座があり、相続人が複数人いる場合は、他の遺産とともに遺産分割協議を行う必要があります。
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