有効な遺言書を残すには? 書き方や注意点を徹底解説!
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平成30年6月、福岡県大野城市で遺産相続のトラブルの末に男性が刺される事件が発生しました。県警は大阪市在住の男性の叔父を現行犯逮捕しています。
親族間で、このようなトラブルに発展する可能性があるのが相続です。自分の死後、親族同士でトラブルにならないようにするためには、遺言書を残すことが有効な方法です。しかし、どのような形式で書けばよいのでしょうか? この記事では遺言書について、わかりやすく説明していきます。
1、遺言書の書き方、種類と特徴
遺言書にはいくつか種類があります。以下に説明していきます。
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(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、民法第968条に「遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定されています。その名のとおり、「自書」で作成するので、遺言書の作成そのものに費用はかかりません。特別な手続きを必要としないため、もっとも多く利用されている方法です。
ただし、遺言書を見つけた遺族は家庭裁判所の「検認」を受ける必要があります。検認を受けずに開封してしまうと、罰則が科せられる可能性があります。
なお、内容の確認を誰も行わず、自ら保管する必要があることから、改ざんや紛失、さらには内容の不備により遺言書そのものが無効となるなどのリスクもあります。
また法改正によって、これまでから作成時のルールが規制緩和されました。これまでは財産目録も含めすべて手書きで書かなければならなかった自筆証書遺言ですが、平成31年1月13日より、目録に関してはパソコンで入力した目録やコピーでも認められるようになりました。そのほかにも法改正によって、従来とは詳細が異なる点があるので、まずは弁護士や税理士など、相続問題に対応した経験が豊富な専門家に相談することをおすすめします。 -
(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、民法第969条に以下のように規定されています。
- 証人2名以上の立ち会いがあること
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
- 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させること
公証人が遺言者から直接内容を聞き取って書面にしますので、内容に不備が生じるおそれがありません。原本は公証人役場で原則20年、または本人の死亡まで保管されます。公正証書遺言は遺言検索システムに登録されるため、遺言者の死亡後に遺言の存在を確認することができます。
証人とは、相続時のトラブルを回避するため、利害関係のない第三者のみがなることができます。未成年などの制限行為能力者や、4親等内の親族などは証人になれません。適当な人物が見つからない場合は、有償となりますが公証役場による証人の紹介や、弁護士に依頼することも可能です。
なお、健康上の理由により、公証人役場まで出向けない場合は、直轄の公証人に出張を依頼することもできます。口がきけない人や耳が聞こえない人も公正証書遺言をすることができます。 -
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、民法第970条に以下のように規定されています。
- 遺言者がその証書に署名し、印を残すこと
- 遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
- 遺言者が公証人一人および証人2名以上に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること
- 公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を残すこと
目的は、内容は秘密にしながらも、遺言者の死後には遺言書が見つかるようにすることです。公証人や証人、もちろん相続人も含めて内容をみることはできません。
公証人と証人が遺言書の「存在」を証明しているため、自筆証書遺言のように「遺言書が遺言者によって作成されたものか」を確認する必要がありません。公証人が封紙に署名をしなければならないので、偽造・修正・加筆などの変造はできません。
もっとも手間がかかる上に、内容を確認できないので不備があれば遺言書の効力が失われます。さらに、自ら保管する必要がありますので、紛失する可能性もあるでしょう。 -
(4)特別方式遺言書
上記の自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言を普通方式と呼び、それ以外は特別方式になります。死が差し迫った状態にある場合や遠隔地にいる場合に用いられます。以下の4つの方式があります。
なお、差し迫った状況を回避し、普通方式の遺言が可能になった場合は、特別方式でされた遺言は6か月の期間をもって無効となります。- ①死亡の危急に迫った者の遺言
- ②伝染病隔離者の遺言
- ③在船者の遺言
- ④船舶避難者の遺言
2、遺言書の内容
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(1)相続・財産
通常、遺言書がない場合は、法定相続人が法定相続分に応じて遺産を相続しますが、。遺言書がある場合は遺言者の意思が尊重されます。遺言書には遺産を誰にどのように分けるのかを具体的に記載しましょう。
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(2)身分
結婚していない男女間に生まれた子どもを、男性が自分の子どもであると認知する遺言もできます。血のつながりがあったとしても、認知されなければ相続権がありません。
他に、身分に関するものとして、相続人の廃除の取り消し(一度廃除された相続人を元に戻し、相続権を回復させる)や、遺言による未成年後見人・未成年後見監督人の指定などがあります。 -
(3)遺言執行
遺言によって遺言執行者を指名することもできます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産目録を作成、各金融機関での預金解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、必要な手続きを行う権限を持ちます。
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(4)その他
祭祀(さいし)主宰者は、民法897条に「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と規定されていますが、その指定も遺言ですることができます。先祖を祭り、系譜(家系図)、祭具(仏壇、位牌、神棚)、墳墓(墓石、墓地)など、供養するものを祭祀財産と呼びます。これらを管理していく者が、法律上の祭祀主宰者(祭祀承継者)です。
3、法的に無効となる遺言
せっかく作成したとしても、法的に無効となる遺言書は以下のとおりです。
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(1)自筆ではない遺言
自筆証書遺言は、パソコンで書かれたもの、音声やビデオ、代筆で書かれたものなど、自書でないものは無効です。ただし、平成31年1月13日以降は法改正により、目録のみ手書きでなくても認められるようになります。詳細は弁護士や税理士に確認したほうがよいでしょう。
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(2)相続の範囲が不明確な遺言
また、「自宅は次男に相続させる」とだけ遺言にあったとしても、これでは自宅の所在地が不明であり、相続の範囲などがあいまいなため無効とる可能性が高くなります。不動産の場合は登記簿謄本に記載されている所在地を記載しましょう。
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(3)日付があいまいな遺言
日付を「吉日」などと特定できない日を書くと無効となります。
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(4)共同遺言
2人以上の者が同一の証書でした遺言は無効です。
4、遺言を作成するメリット
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(1)家族・親族とのトラブル防止
遺言書は遺言者の意思の尊重であるといえます。
遺言書によって法定相続人以外にも財産を譲り渡すことが可能になります。また、相続させたくない相続人がいる場合にも、遺言をしておくことで相続させないようにすることができます。ただし、遺産をもらえないことになった法定相続人は、最低限の額の請求をすることができます。これを遺留分といい、遺留分を請求する権利を遺留分減殺請求権といいます。
遺留分減殺請求権は、法定相続人が権利を行使すると意思を示したときに効力が発生します。相続が発生したことを知ったとき、または遺留分減殺請求をすべき相続があったことを知ったときから1年、もしくは相続の発生から10年で時効消滅します。 -
(2)財産が明確になる
また、遺言書には財産目録を付けることが一般的です。遺言の手続きは迅速さを求められることも多く、遺族にとっては悲しみに暮れる暇もないというケースも少なくありません。可能な限り詳細な目録を残すことによって、改めて遺産調査をする手間を大幅に削減できるだけでなく、あらかじめ財産額を明確にすることができるというメリットも得られるでしょう。
5、まとめ
遺言の内容は遺言者の自由であり、本人の意思が尊重されることはいうまでもありません。
しかし、形式に不備があった場合、その遺言は無効になってしまいます。また、法定相続分と異なる指定をする場合は、遺留分や寄与分にも考慮しましょう。
遺言書の作成に関しては、遺言書作成の経験が豊富な弁護士がアドバイスし、サポートします。遺言書に関する疑問やお悩みは、ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスへお気軽に相談してください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています