遺留分侵害額請求調停が不成立になるケースとその後の流れ
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- 調停
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2022年度の北九州市の統計によると死亡者数は1万2864名でした。
葬儀後は、相続手続きが開始されますが、遺産分割がスムーズに進まず、遺留分侵害額請求調停に発展するケースもあります。ところが、相手が合意しない、調停に出頭しないなどで、遺留分侵害額請求調停が不成立になることがあります。
そこで今回は、遺留分侵害額請求調停が不成立になるケースとその後の手続き、注意点をベリーベスト法律事務所 北九州オフィスの弁護士が解説します。
1、遺留分侵害額請求の基礎知識
まずは、そもそも遺留分侵害額請求とは、どのような手続きなのか、流れと併せて解説します。
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(1)遺留分侵害額(減殺)請求とは
遺留分侵害額請求とは、法律で保証された最低限の相続分を、他の相続人へ請求することをいいます。被相続人(=亡くなった人)の兄弟姉妹以外の相続人にのみ認められています。
たとえば、被相続人に子が複数人いる場合に、そのうちの一人のみが相続できる旨の遺言があった場合、他の相続人が不平等になってしまいます。この場合、相続人に認められた遺留分が侵害されていたとして、侵害した相続人に対して遺留分侵害額請求ができます。
なお、従来は、遺留分減殺請求と呼ばれていましたが、2019年の民法改正で「遺留分侵害額請求」に改正されました。遺留分減殺請求は遺言によって贈与された土地等の財産そのものの取戻しを請求する制度であるのに対して、遺留分侵害額請求はあくまで遺留分として認められる金額と実際に相続した金額の差額を請求する制度であるという点が異なります。2019年6月30日以前に相続が発生した場合には遺留分減殺請求、2019年7月1日以降に相続が発生した場合には遺留分侵害額請求を行うことになります。 -
(2)遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求をする場合、
① 協議
② 調停
③ 訴訟
の流れで行われます。① 協議とは、当事者同士の話し合いのことをいいます。つまり、当事者間の交渉によって、遺留分侵害相当額の支払いをするよう求め、解決を目指します。
② 調停とは、調停委員を交えて裁判所で協議(話し合い)する法的手続きです。第三者を交えて冷静な話し合いをすることで解決を目指します。調停で決着がつかないときには、審判という手続きに移行する場合と改めて訴訟を提起しなければならない場合があります。遺留分侵害額請求の場合には、調停が不成立になっても審判に移行せず、訴訟を提起することが求められます。
③ 訴訟とは、両当事者がそれぞれの主張を展開し、事実を証拠によって証明した上で、裁判所の判断である判決によって決着をつける方法です。法律的なトラブルは最終的に訴訟によって解決されます。判決が下されると、差し押さえなどの強制執行が可能になります。そうすることで、判決の内容を無視することができず、相手の財産から遺留分侵害相当額を得ることができます。
もっとも、遺留分侵害額請求の場合、原則として訴訟の前に調停を申し立てなければなりません。
2、遺留分侵害請求額調停が不成立になるケース
遺留分侵害額調停が不成立になるケースとして、下記の2つが挙げられます。
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(1)相手から合意が得られない
調停で相手から合意が得られない場合には、ほとんどの場合で調停が不成立になります。たとえば、「自分が相続したのに、なぜ今さら口出ししてくるのか」と話を聞いてくれないケースが考えられます。
この場合、協議をしようとしても無視され、調停を起こしても聞き入れられる可能性は低いでしょう。また、早期解決を目指し、和解するために、当初の請求額から下げて、相手が支払える額にしたとしても合意に至れないケースもあります。 -
(2)相手が調停に出頭しない
話し合いに応じてくれないだけでなく、相手が調停に出頭しないケースがあります。この場合には、そもそも話し合いを進めることはできません。そうすると、合意することができず、遺留分侵害額請求調停が不成立になります。
3、遺留分侵害額調停が不成立になった時の流れ
遺留分侵害額請求が不成立になった場合、あらためて裁判所に訴訟を提起します。以下、不成立になった場合の流れを解説します。
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(1)裁判所に訴訟を提起する
裁判所に遺留分侵害額請求の訴訟を提起する場合、請求額によって訴状の提出先が異なります。
140万円以下の場合- 地方裁判所、もしくは簡易裁判所に提起
- 提出先は以下のいずれかを選ぶ
- ① 被告(相手方)の普通裁判籍の所在地:原則相手の住所
- ② 金銭債務の義務履行地:原則として原告(自分)の住所
- ③ 相続開始時における被相続人の普通裁判籍の所在地:亡くなった人の最後の住所
140万円を超える場合- 地方裁判所に提起
- 提出先は「140万円以下」の場合と同じ①②③から選ぶ
また、裁判所には、被相続人の戸籍謄本・除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺言書の写し、遺産に関する証明書とともに訴状(どんな請求をしているかを記載した書面)の提出が必要です。
訴訟の提起ができた場合、裁判所で遺留分についての主張や証拠による立証を行います。たとえば、遺留分の基礎となる財産の内容・金額を提出し、自分の遺留分がいくらあるのか、そして受け取っていないのかについて主張・立証します。 -
(2)和解の成立
訴訟の途中で、裁判所が和解を提案し、両当事者がその内容に納得した場合には、和解が成立します。和解にも裁判所の決定である判決と同じような効力があります。そのため、和解したのに支払われないという場合には、差し押さえなどの強制執行が可能です。
和解が成立すれば、合意した内容での和解調書が作成され、その時点で裁判も終了します。 -
(3)判決
裁判中に和解することができなければ、裁判所の判決が下されます。裁判所は、両当事者の主張を聞き、法律上どちらの主張が正当か判断します。
もっとも、判決に対しては、判決書の送達から2週間以内に控訴することができます。控訴すると基本的には高等裁判所で再度主張と立証をすることになります。この控訴の内容にも納得がいかない場合には、上訴としてもう一度だけ争うことができます。日本では、このように三審制が採用されているため、最大3回の審理・判決を受けることができます。
控訴や上訴をしなかった場合には、その時点の判決が確定します。つまり、遺留分侵害額請求が認められた場合には、強制執行することができます。一方で、遺留分侵害額請求が認められなかった場合には、遺留分を受け取ることはできません。
4、遺留分侵害額請求に関する4つの注意点
遺留分侵害請求を考えている場合に、注意しなければならない点が4つあります。
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(1)兄弟・姉妹に遺留分の請求権はない
遺留分侵害額請求をするための遺留分は、相続人の中でも一部の人しか認められていません。
遺留分の請求権があるのは、以下の通りです。- 配偶者
- 子どもや孫など被相続人の直系卑属
- 父母や祖父母など被相続人の直系尊属
なお、被相続人の兄弟・姉妹や甥、姪には請求権がないため、遺留分侵害額請求はできません。
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(2)支払いは現金でなければならない
遺留分侵害額請求の支払いは、原則として現金とされています。そのため、請求した相手が現金を持っていない場合には、相手の財産を差し押さえ、金銭に換えて、遺留分相当額を受け取ることになります。
ただし、請求者と侵害者が互いに合意すれば現物返還も可能です。また、訴訟において裁判所が支払い方法を命じることもあります。支払方法について互いの希望が異なる場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)遺留分侵害額請求は1年と10年の時効がある
遺留分侵害額請求には、1年の短期時効と10年の長期時効があります。
短期時効は、相続開始および遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを「知った日から1年」が消滅時効です。たとえば、被相続人の死後数年たってから遺留分が侵害されていることを知った場合でも、その日から1年が時効に期間となります。
長期時効は、「相続開始(死亡時)から10年」が遺留分侵害額請求の時効となります。請求できる期間は、短期の1年間と長期の10年間のうち、先に到来する方が適用されます。 -
(4)事業承継が絡む場合民法特例が適用される
相続に事業承継が関係する場合には、民法特例が適用されます。
たとえば、父が長男に自社株や事業用設備を相続した場合であっても、長男以外の兄弟姉妹にも遺留分があり、長男に対して遺留分侵害額請求できます。しかし遺留分は、現金で遺留分を支払わなければならないため、自社株や設備を売却しなければならないおそれがあります。
そこで、「遺留分に関する民法の特例」として、遺留分を有する相続人全員の合意があれば以下の2つの方法を採ることができます。- 除外合意:株式や事業用資産の価格を遺留分の算定から除外する
- 固定合意:自社株式の価格を遺留分の算定の際に時価に固定する
この2つの方法によって、円滑な事業承継をしつつ、遺留分権者の遺留分を保証します。
5、遺留分侵害額請求は弁護士にご相談を
遺留分侵害額請求を考えている場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)遺留分侵害額請求には時効が存在する
遺留分侵害額請求には、遺留分侵害の事実を知った日から1年、もしくは相続開始から10年の時効があります。
そのため、できるだけ早く証拠を集め、協議や調停、訴訟を開始するのが望ましいといえます。しかし、遺留分の計算や証拠収集など個人で行うのが難しいこともあるでしょう。
いつの間にか1年間が経過し、時効にかかってしまわないためにも、早期に弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)専門知識により適切な遺留分を請求できる
遺留分侵害額請求には、法律上の難しい手続きや計算があります。たとえば、遺留分を計算する際に、どの財産が遺留分の基礎となるかわからないことがあります。しかし、弁護士なら遺産状況を調査し、遺留分を法律に基づいて正確に計算することができます。
また、調停や訴訟になった場合、裁判所に提出する書類の作成が必要です。書類に不備があった場合は申請が受理されないため、何度も修正しているうちに時効になってしまう可能性もあります。弁護士であれば、適切に書類を作成し、いつまでも手続きが終わらないという事態を防ぐことができます。 -
(3)訴訟に発展してもそのまま弁護士に対応してもらえる
遺留分侵害額請求は、協議や調停では合意に至らないケースも珍しくありません。そのような場合、最終的には訴訟に発展することがあります。
弁護士に早期に依頼して相手方とのやりとりや交渉を任せることで、早期解決を目指すことができます。また、何度も相手方とやりとりを続けることは、精神的にも肉体的にも負担が大きいものです。また、協議から調停・訴訟になった場合にもすべての手続きを一任できます。
お問い合わせください。
6、まとめ
遺留分侵害額請求調停が不成立になると、訴訟の提起を検討する必要があります。また遺留分侵害額請求には時効があるため、できるだけ迅速に進めていくことが望ましいといえます。そのため、実績のある弁護士に手続きや訴訟を依頼することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 北九州オフィスでは、遺留分侵害額請求の解決実績のある弁護士が状況に合わせて適切なアドバイスをいたします。遺留分侵害額請求調停で不成立になった、訴訟になりそう、などお困りの方は、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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